下町の住宅街にある大きな暖簾
東京・北区王子 - 古くは工業の街として栄えたこの地に、創業82年の老舗製麺所がある。
玉川食品株式会社は『江戸玉川屋』の屋号で、乾麺・生麺・茹麺の製造卸と自社販売を営む。中でも注目されるのが、乾麺を作り続けているのは東京23区の中で唯一ここだけということ。手間暇を惜しまず、職人の技を活かした製法によって実現する麺の味と食感には定評があり、宮内庁御用ブランドとして長い間親しまれている。
また、東京城北地区を中心とした175校の学校給食に採用されており、その規模は都内最大。地域の子供たちにとってもなじみの深い存在だ。
製麺工場の一角を使った直売所には、通常商品に加えて生麺や切れ端麺など、ここでしか買えない商品が並ぶ。
効率の対極にある麺づくり
江戸玉川屋の麺は二つの特長的な製法によって作られている。ひとつは、92℃以上の熱湯を使用して麺をこねる『湯ごね製法』。もうひとつは、一般的な乾燥時間の4倍である24時間かけてじっくりと小麦の旨味を凝縮させる『熟成乾燥製法』である。
これら二つの製法によって、乾麺でありながら生麺のようなモチっとした食感と光沢のある麺が作りだされるのだ。
伝統と職人技の結晶である乾麺『満さく』シリーズは、生産方法に特徴がある東京都の特産物として平成25年2月、東京都地域特産品認証食品(通称Eマーク)に認証された。
消費地であり、生産地である東京
近年、製麺業界は職人の高齢化や後継者不足を理由に危機意識が高まっている。このまま江戸玉川屋まで衰退させてしまうわけにはいかない!と同社の代表取締役・関根康弘さんは生き残りをかけ、麺の美味しさを伝える新しい取り組みに挑戦してきた。
経済の中心地であり大量消費の街・東京だが、同時に生産地でもあるということを関根さんは強く訴える。
「東京でも立派なものづくりを行っているということを、もっとたくさんの人に発信していきたいんです」
この想いを形にした取り組みのひとつが、江戸玉川屋の『特上満さくうどん』と、東京唯一の醤油蔵である近藤醸造の『めんつゆ』、そして、すべて東京産の素材で作られた老舗佃煮屋・遠忠食品の『柚子こしょう』をセットにした『江戸の満さく詰め合わせ』の販売である。
言うなれば、“東京うどん”がこのセットひとつで完成するとあって、お中元やお歳暮などの贈答品として人気を集めている。
江戸玉川屋の商品の中でも一際目をひくのが、浮世絵をパッケージにした『東京うどん・そば』シリーズ。
通常商品よりも少し割高ではあるが、1袋100gの食べ切りサイズなので、手軽な“ばらまき土産”としてバイヤーからの注目度も高い。食品売り場ばかりでなく、雑貨店や書店の旅行コーナーにも並んでいるというから驚きである。
また、包装資材には麺の変質を防ぐため、茶袋などに使われる遮光や防湿に優れたプラスチックフィルムを採用している。
このようにパッケージに付加価値をつけることで、地域の食卓だけでなく、国内外の観光客に向けて広く販路を拡大することが狙いだ。
「味に絶対の自信があるし、食べてもらえればみんな美味しいと言ってくれる。ただ、そのまま売っているだけでは中々手に取ってもらえない。そう思った時、様々なターゲット層に向けた商品を販売し、まずは手に取ってもらうための工夫をしようと思ったんです」
あくまで本業は麺作りだが、それだけでは足りない。良いものを作ることはもちろん、それを広く生活者に訴えていく攻めの姿勢が今、求められていることなのかもしれない。
関根さんは「ちょっとやりすぎかな?」と照れ笑いを浮かべながら、最新のプロジェクトを教えてくれた。
地元飲食店との初コラボレーション企画『赤羽やきそば会』である。
熱き想いを一皿に込めて
赤羽やきそば会とは、2016年12月に発足した、赤羽をこよなく愛する5つの飲食店と3つの企業で結成された有志団体。
参加する飲食店はイタリアンから中華、ジビエ、ちゃんこ料理とバラエティに富んでいる。地元企業からは江戸玉川屋のほか、調味料メーカー・あみ印食品工業と明治から続く酒蔵・小山酒造が参加している。
メニューは子供から大人まで親しみやすい焼きそばをチョイスし、肝となる麺はメンバーで試行錯誤しながら開発した特注品だ。
一般的に、焼きそばには蒸し麺を使うところ、まぜそば用中太麺にうどん粉を混ぜた生麺を使用している。生麺は茹でるという手順がひとつ増えるが、炒め時間が短くなることで、よりモチモチ感の強い食感を実現できるのだそう。
江戸玉川屋の麺、あみ印のソース、小山酒造の日本酒をベースに、具材には青ネギ、揚げ玉、カリカリ梅、卵黄をトッピングするところまでを赤羽やきそばの定義として統一。そこから先の、調理法や肉の種類、盛り付けは各店に委ねられている。
画一的にするのではなく、それぞれの飲食店の特長を活かした粋なご当地グルメ・赤羽やきそばが完成した。
例えば、イタリアンレストランVieni Vieni(ビエニビエニ)は、そぼろ状の合挽き肉と麺の絡み合いが絶妙。魚介の出汁が効いたソースが麺の甘みを引き立て、深い味わいを感じることができる。パスタを彷彿とさせる高さを出した盛り付けと、かわいく散らされた梅にも店主のこだわりが光る。
ジビエ料理が楽しめるKEMONO BBQ・Ban藏(バンクラ)は、卵を囲むように乗せられた三枚の肉が見るからに食べ応え抜群。4品種を掛け合わせた北海道産・神威豚のバラ肉は甘みが強く、舌の上でとろけていく。干し海老を炒って作られたソースの香ばしさが鼻から抜け、食欲を増進させる。
沖縄食材を中心とした創作イタリアンAtsu Caffe’(アツカフェ)は、焼きそばの周りにあしらわれたバルサミコ酢、オリーブオイル、ブラックペッパーに、まるでお皿がパレットになったような華やかな印象を受ける。バルサミコ酢の爽やかな甘みがアクセントとなり、焼きそばの印象が覆される。
地域から全国区へ 「赤羽やきそば」の次なるステップ
「北区にはいいものがあるのに広まっていない」という問題意識から始まった赤羽やきそば会。取引関係にある飲食店と企業のコラボレーションは業界でも珍しく、関根さんにとっても初めての挑戦だ。
「企業だけではお客さまに料理として提供することができないので、飲食店さんと想いをひとつに作り上げた料理を発信できることが喜びです」
食品企業にとっては、料理として提供する「場」が得られること、一方で飲食店にとっては多方面にパイプを持つ企業の力を借り、自分たちの商品を拡散していけること。それぞれの強みを活かし、赤羽やきそばを広めていけるところに異業種コラボの意義があるのだろう。
企業と飲食店が一丸となって団結し、個々人の発展に留まらず、それがひいては街の活性化をも促すことになる。今まさに、新たな道が切り開かれようとしているのかもしれない。
今後は積極的に催事や地域のイベントに参加し、まずは地元から認知度を高めていきたいという。
直近では、毎年4月末に東京都北区赤羽で開催されている『赤羽馬鹿祭り』への出店が決定している。2日間で延べ数十万人が訪れる地域最大のお祭りとあって、赤羽やきそば会の意気込みは大きい。
また現在、全5店舗を食べ歩いてスタンプを集めると、『赤羽やきそば三食セット』がもらえるキャンペーンを行っている。お気に入りのお店の味を再現するのも良し、オリジナルトッピングを考案するのも良し。自宅でも赤羽やきそばを楽しむことができる。
5人の店主の心意気と見事なアレンジ能力が光る赤羽やきそばは、地元企業との強力なタッグを武器に、地域の新しい名物料理になる予感。
玉川食品株式会社/江戸玉川屋
東京都北区豊島 7-5-12
03-3913-5705
10:00~17:00
日曜・祝日定休
http://www.edo-tamagawaya.jp/
赤羽やきそば会
https://www.facebook.com/akabaneyakisoba/
Vieni Vieni(ビエニビエニ)
東京都北区赤羽2-10-2 きくやビル2F
03-3598-2951
ランチ11:30~16:00 / ディナー18:00~21:00頃
火曜不定休
http://vienivieni.com/
Ban藏(バンクラ)
東京都北区赤羽1-64-8 三角横丁
03-5939-9660
18:00~24:00 (L.O.23:30)
月曜定休
https://tabelog.com/tokyo/A1323/A132305/13198822/
Atsu Caffe’(アツカフェ)
東京都北区赤羽1-40-6
03-3903-1969
ランチ11:30~14:30 / ディナー18:00~23:30 (L.O.23:00)
不定休
http://atsu-caffe.com/