「樹脂製品って安価に大量生産できるということで、使い捨てになる場合が多いじゃないですか。そんな状況に違和感があって、愛着を持って長く使ってもらえるものを作りたいと考えていました」
プロダクトデザインを手がける株式会社KaB DESIGN (カブ・デザイン)の代表取締役・齋藤善子さん(53歳)の言葉が形になったブランド。それが『9°(クド)』です。
9°は、食材を入れて電子レンジで加熱するだけでビストロ風メニューやスイーツが作れて、そのまま食卓に出せる“調理ができる器”としてデビューしました。
-20℃~220℃で使用できる耐熱樹脂製で、冷凍・冷蔵保存にも対応。食洗機や食器乾燥機が使えるので、調理から後片付けまで9°ひとつで済ませられると、いいことずくめです。
「日々のおいしいに寄り添う」というコンセプトのとおり、忙しくても美味しい食事がしたい時、コンロ調理と並行してもう一品作りたい時、子供と一緒に安全に料理がしたい時と、あらゆるシーンで活躍する姿がイメージできます。
レンジ調理をもっとおいしく
サイズは2種類で、『U90』(約230ml・2400円税抜)はスープやデザートに、『U150』(約750ml・3600円税抜)はおかずや丼ものと、大人1人分にちょうどいいサイズです。
公式サイトで紹介しているオリジナルレシピはどれもおしゃれなものばかり。一見難しそうに見えるものも、1~3回の加熱で調理することができます。
例えば『サーモンとアスパラのもち麦リゾット』は夜のうちに冷蔵庫で仕込んでおけば、翌朝に約5分加熱するだけで絶品朝ごはんのできあがり。『しっとり濃厚ガトーショコラ』も9°ひとつで作れて、加熱は2回で合計約4分。簡単&時短なうえに、レンジ調理とは思えない本格的な味です。
料理が得意な人もそうでない人も、レパートリーが広がること間違いなしの9°。その主材にはSPS樹脂(シンジオタクチックポリスチレン)が使われています。
電子レンジ加熱時の発熱量が少ないのが特徴で、3分間加熱した場合、磁器に比べて9°の表面温度の上昇は半分以下。器の熱に食材の水分が奪われることなく、ふっくら仕上がります。
さらにフタの裏の突起が食材から出る蒸気を水滴にして、器の中にまんべんなく戻してくれるので、旨みたっぷりの「無水調理」もお手のものです。
五感で味わう器としての魅力
「テーマのひとつに『時の風化に耐える』というのがあります。日常的かつ長く使ってもらいたいので、あえてシンプルに。ぱっと見、どこをデザインしたのか分からないくらいクセのないものにしたかったんです」(齋藤さん)
飽きのこないデザインを第一に、フォルムは奇をてらわずシンプルそのもの。
しかし手にしてみると、表面のざらっと感と適度な重みが“土ものの器”のようにしっくりとなじむ感触。テーブルに置いたときにコツンと聞こえる硬い音。今までの樹脂にない個性を感じます。
「この質感、色味、音感で三位一体。おいしさには五感で感じるところが一番大事と思うので、形だけデザインするのではなく、素材開発から取り組みました」(齋藤さん)
製造元である富山県の樹脂製品メーカー・シロウマサイエンス株式会社もまた、樹脂の価値を上げたいという想いを抱いており、共同開発が実現。同社から望める北アルプス「白馬岳」の雪や大地、草木といった自然をコンセプトにした6色が誕生しました。
「この色数は大手メーカーさんではやりづらいと思います。こんなに緑ばっかり、ねぇ(笑)。でもこれが3色だったらそんなにインパクトがないし、伝わり方が全然違うと思うんです」(齋藤さん)
楽しく、おいしく、みんなで広げていく
自社ブランドとして販売を進めるなかで齋藤さんが重視しているのは、継続的なブランディングです。
「ブランドを浸透させるためにもデザイン思考が必要。どういう訴求をしていくかで、売れ方って変わるんです」(齋藤さん)
なかでもオリジナルレシピは、「9°がブランドとして目指す世界観を表現するレシピにしたい」と力を入れていて、フードデザイナーの佐藤玲子さんとさまざまなテーマで考案しています。
9°のスタイリッシュな雰囲気に合う“上級者見え”するものを、誰でも簡単に作れるように加熱時間や工程を調整。何度も試作を繰り返して、やっとの思いで一品が完成します。その大変さは想像に難くありません。
さらに、だし専門店とのセット販売や、ライフスタイルショップ&カフェでのワークショップなど、他社とのコラボレーションにも積極的です。
「楽しく、おいしく、みんなで広げていく仕事をこのブランドでやりたかったんです。いろんな人が関わって表現していくことで深みが出てきますから」(齋藤さん)
PR担当は入社1年目の市橋樹人さん(22歳)。レシピ開発にも携わり、情報発信などのブランド育成を任されています。これまで料理の経験はほとんどなかったそうですが、すっかり9°の魅力に取りつかれた様子で、説明もどこか楽しそう。
「『9°研究部』を作りたいんです。プロの方を中心に料理好きな人たちと集まって、それぞれが考えた9°レシピを発表してウェブにアップする。料理好きな人たちを巻き込んでいけるかなと」(市橋さん)
「おいしく食べて、飲み会にして広がる(笑)」(齋藤さん)
親子ほど歳の離れたお二人ですが、お互いに信頼している様子が伝わってきます。
グッドデザイン賞ベスト100を初受賞
9°は今年10月、日本を代表するデザイン評価・推奨制度『2018年度グッドデザイン賞』で、審査対象数4789件・入賞作品1353件の中から、グッドデザイン・ベスト100に選ばれました。
過去、鋳鉄製鍋『KAWAGUCHI i-mono HOTPAN』やセキュリティゲート『SG-Center Flap1500』で受賞経験のある齋藤さんも、ベスト100は今回がはじめて。
知らせが届いた瞬間、テンションが上がって数時間は仕事が手につかなかったそう。今回の受賞による追い風を期待しながらも、2019年はコツコツと「らしさ」を表現していきたいと齋藤さんは話します。
「9°があることで生活が少し豊かになっていくところを、どう“コトづくり”していくか。関わる人たちが喜んでくれて、自分たちも楽しめることをやっていきたいですね。やっぱり『9°研究部』かな(笑)」(齋藤さん)
直近では公式オンラインストア『Class-D(クラス・ディー)』をオープンしたばかり。これまで大事に育ててきたブランドを自らの手で送り出し、デザインのある豊かな暮らしを提案していきます。
素材と向き合い、魅力を再定義するカブ・デザイン。現代の多様なライフスタイルにそっと寄り添う9°は、食卓を彩る新しいスタンダードとなる予感がします。
株式会社カブ・デザイン
東京都足立区栗原1-24-17 福澤製作所2階
03-5831-5862
http://kab-design.jp/
http://9-do.net/