日本一の電気街にしてサブカルチャーの聖地・秋葉原。2020年4月、JR秋葉原駅中央改札口向かいの高架下に、ラーメン通の間で知らぬ人はいない「麺処ほん田」の本店が開業13年目にして移転オープンした。
店主の本田裕樹さん(33歳)は、弱冠21歳で北区東十条の住宅街に同店を開業。当初から完成度の高いラーメンを提供し、瞬く間に繁盛店の仲間入りを果たした。都内有数のラーメン激戦区に店を構えても、客が行列をつくる光景は東十条時代と変わらない。
新しい店のコンセプトは“ラーメンが好きな人に食べてほしい特別な一杯”。
「毎日同じ味を出そうと思っていなくて。そのときに僕が作るおいしい一杯を食べに来てほしいです」と本田さんは言う。
醤油味で日本一になりたい
秋葉原本店の柱は醤油・塩・辛の3つ。醤油と塩は「ラーメン」と「つけ(麺)」、辛は「汁無し担々麺」といずれも自慢の味だが、基本の“醤油”には思い入れがひときわ強い。
「醤油はラーメンとつけ麺の両方を食べてほしいですね。自分で食べても本当においしいと思うので」
本田さんは日本一の醤油ラーメンを作りたいと眼光鋭く語る。きっかけは2020年2月に放送されたあるテレビ番組だった。
「『名ラーメン店の店主100名が選んだ嫉妬するほどウマいラーメン』という番組で、僕は3軒推薦したんですけど、うちは12位だったんですよ。すごく悔しくて、人のラーメンをおすすめしている場合じゃないなと」
お客様から評価されるのはもちろん、同業のプロから一番に選ばれるラーメンを作りたいと、メニューの開発に励んだ。東十条時代の「手揉み中華蕎麦(醤油)」は雑味がラーメンらしさを体現していたのに対し、今回は新たに高価なハマグリを取りいれてだしをとり、うま味だけを奇麗に抽出した。5種類の醤油をブレンドしたタレと相まって、ふくよかな余韻が長く残る。
丼の中で大きな存在感を放つチャーシューは、豚肩ロースと豚ロース、鶏モモを使用。とくに豚肩ロースは脂身側と赤身側に分けてカット。真空低温調理やオーブン焼き、吊るし焼きなどさまざまなテクニックを駆使し、豚はスモーキー、鶏はジューシーな仕上がりだ。
「しっかり差別化できていて、とくに豚チャーシューは3種類それぞれ違ったおいしさがあると思います」
特製醤油(ラーメン・1500円税込)は、通常3枚のチャーシューが7枚に増量。トロトロの味玉と高級海苔がトッピングされ、まさに至高の一杯。
自家製100パーセントを実現
秋葉原出店と同時に始めたのが自家製麺だ。店の奥に製麺室を設け、1日当たり40~50キログラム、ラーメン・つけ麺・担々麺用の3種類を作り分けている。
使用する材料は、北海道の広大な畑で育った「はるゆたか」をメインに国産小麦粉3種類をブレンド。オーダーメイドの製麺機から切り出した麺線は一晩寝かせたものを用いる。適度な弾力性と歯切れの良さがあり、ツルツルでのど越しがよく、いくら食べても飽きない。
「東十条時代から、あとは麺をやれば全部手作りになると思っていたんですけど、なかなかきっかけがなくて。最初はうまくいかなくて大変でしたが、今はすごく気に入っています」
特製塩つけ(1600円税込)の麺は、昆布水をまとった状態で提供され、これだけで完食しそうになるほどのおいしさ。小皿に盛られた藻塩とスダチを掛ければ、麺の小麦の香りがより際立つ。柔らかくまろやかなつけ汁との絡み具合も絶妙。
ラーメンとつけはどちらもストレートな麺だが、汁無し担々麺(1100円税込)は本田さんが手もみした縮れ麺が味わえる。モチモチの麺をよくかき混ぜて食べれば、自家製のラー油にボリュームたっぷりの肉みそ、ピリリと辛いサンショウなどが絡み合い、強烈な刺激とうま味がこみ上げる。
「ラーメン=安い」を変えたい
ラーメン業界では長い間“1000円の壁が存在する”と言われている。しかし、本田さんは“ラーメン=安い”というイメージを変えたくて、自身では初めてその壁を破った。
「高いと思わせない味づくり、店づくりをしていかないといけないと思っています。価格と味に納得して週2~3回来てくれる方がいるから、これでいいのかなと」
定番メニューを磨く一方で、サイドメニューやドリンクの種類を増やすなどラインナップの充実にも力を入れる。よく出るワンタンは皮もあんも手作り。担々豆腐やバターポークも人気が高い。
席数も増えた。前の店はカウンター10席のみに対し、新店舗はカウンター5席の他にテーブル4卓12席を用意。以前から、座面が高いカウンターだと子どもが食べにくそうにしていたのが気にかかり、テーブル席を設けたいと考えていたそうだ。
看板メニューは過去に封印
ところで、あれほど人気のあった東十条時代のラーメンやつけ麺はひとつも見当たらない。
「泣いている常連さんは多いと思います。でも、本田裕樹が今作りたいラーメンというコンセプトからずれるような気がして。レシピを捨てても自分の中にはちゃんと残っているので、やりたくなったらまたやれるし」
東十条店の完全撤退も脳裏に浮かんだそうだが、地元の方からのラブコールもあって同店は現在弟子が引き継ぎ、本田さんの店主時代に好評だった限定メニュー「二郎インスパイア系」をレギュラーで提供している。
経営者として支店を出す、弟子を育てる、カップラーメンやベビースターラーメンになる――とさまざまな夢を叶えてきた本田さんだが、秋葉原では過去のスタイルを一新し、さらなる飛躍を目指す。
「今までと真逆のことがやりたかったんです。仕事着も黒いTシャツから白いTシャツにして、頭に巻いていたタオルも禁止です」
開店して早3ケ月が経過した。新型コロナウイルス対策で入店時にはアルコール消毒を徹底するなど衛生面には細心の注意を払い、普段のオペレーションとは少々勝手が異なる。看板ものれんもないシンプルな外観にもかかわらず、最初はシビれる忙しさだったそうだが、「久しぶりにすごく仕事でワクワクしています」と満足げだ。
「ラーメンがおいしくて、お客様が喜んでくれたらそれでいい。なるべくスープ切れしないように、しっかり仕込んでお待ちしています」
麺処ほん田 本店
東京都千代田区神田花岡町1-19 map
070-7793-3979
11:30~15:00/18:00~22:00
水曜定休
麺処ほん田 東十条店
東京都北区東十条1-22-6 map
03-3912-3965
11:30~15:00/18:00~22:00(月曜は昼の部のみ)
火曜定休