「和柄は今のファッションには合わない。そんな固定概念を覆すスタイリングを提案していきたいんです」
そう語るのは、アパレルブランド『yorozu(ヨロズ)』を手掛ける株式会社伝播の代表取締役・森川明さん(37歳)。日本の伝統的な柄や技術をファッショナブルに変換して取り入れたバッグは、おしゃれ感度の高い大人を魅了している。
素材から縫製まで国内生産にこだわり、現在は『イロハ』、『キリハナ』、『ツナギ』の3シリーズを展開している。全国15店、海外はソウルと香港の2店のセレクトショップで販売中だ。
伝統の技術と美感を活かす
「たすき」から着想を得たというショルダーストラップが特徴的な『イロハ タスキショルダー』(2万3100円税込)はブランドのアイコン的存在。
デザイン性ばかりでなくデイリーに使いやすい心遣いが随所に散りばめられている。
例えば、ショルダーストラップの端のレザーポケット。スマートフォンが入るようになっており、大きなバッグから探すのに苦労することもない。
口を開けると短めのハンドルが両サイドに出現。肩掛けだけでなく手さげでも使えて便利だ。
「広い意味でかばんはファッションですけど、道具としての機能がちゃんとしていないと意味をなさない。雰囲気はいいのに使い勝手が悪くて、結局使わなくなるというのは避けたいんです」
生地には、JIS規格で最高ランクの撥水力をもつ国産スリーレイヤーナイロンを採用している。湿気を放出してくれる機能性素材なので、身体に密着しても蒸れずに快適。ガシガシ使い倒したくなるに違いない。
2021年春夏コレクションからはイロハシリーズに、桜と梅結びの水引を総柄にした『ハタオリ』ラインが加わった。『イロハ-ハタオリ タスキトート』(3万9600円税込)は、カジュアルながら着物地をリメイクしたようなシブさがある。長ネギがすっぽり入るほどの深さがあり、ちょっとした旅行にも使えそうだ。
この柄はプリントではなく、織り柄。年季の入ったジャガード織機で、ゆっくりと縦糸と横糸を交差させていくため、デニム生地なのに柔らかく、コットンのソフトな温もりが感じられる。
「こういう繊細な模様や文字を表現するのはなかなか難しいんですが、日本の生地メーカーの技術力はやっぱりすごい。1日に7メートルしか織れないので、めちゃくちゃ貴重なんです」
ディテールに光る職人技
キリハナは兵庫県姫路市で作るオリジナルのレザーシリーズで、裏地には和を思わせる「二越ちりめん」を使用するなど、小粋なセンスにあふれている。
ミニバッグの流行も相まって、yorozuの中でも一二を争う人気なのが『キリハナ角字巾着 30』(2万9700円税込)だ。
表地にはオリジナルの角字体で“ヨロズ”と刺繍が施され、さりげなくアイデンティティを感じさせる。
素材は牛革で、軽くて柔らか。化学と植物由来の混合なめしによって、耐久性と生産過程における環境配慮を両立した。森川さんは「ベストな解」と自信をのぞかせる。
サイドファスナーを開くと、裏地の「五三桐」と桜の柄がちらり。
「五三桐は500円硬貨やパスポートにも描かれる、日本を象徴する紋です。でも意識して見る機会って意外と少ないと思うんです。気に入って買った商品にこういった柄が使われていることで、興味を持つきっかけになれれば」
最後に紹介するのは、細帯のストラップベルトにポーチや財布を組み合わせるツナギシリーズ。数やサイズを自分好みにできるので、荷物を最小限にしたいという人におすすめ。アクセサリー感覚で使えて、コーディネートの主役にもなるアイテムだ。
『ツナギ漆工芸隠し財布』(3万5200円税込)、『ツナギ漆工芸丸型』(2万9700円税込)、『ツナギ漆工芸ポーチ 18.5』(3万3000円税込)はいずれも鹿革製。うるしで模様付けする伝統技術「印伝」を用いている。
「昔からある技法なんですけど、私以下の世代になると知られてないのか、新しいと言われます。そういう人たちに届けられるようにしていきたいですね」
海外にも通用するモノづくりを
デザインは森川さんがほぼ一人で行っており、そのノウハウは前職のバッグメーカーで培った。新ブランド事業を一人で立ち上げるほどの活躍だったが、理想のモノづくりを求めて2019年に独立した。
そのときから海外進出を意識していたという森川さん。漫画やアニメのように、自分たちも日本にいるからこその発想でチャンスをつかみたい。そう考えて日々、息のあった下町の職人たちとモノづくりに励んでいる。
実際に、yorozuのInstagramを見た海外のバイヤーから声がかかり、直取引に至ったことも。
日本の古典からインスピレーションを得つつも、既存のジャンルにはまらないyorozuは国内外を見渡しても個性的なブランドだ。
「アメカジだとかモードだとか、すぐに系統が思い浮かばないということは、新しいことをやれているんじゃないかな。カテゴリー化して思考停止するんじゃなく、いったん立ち止まって再考するといいますかね。職人さんやモノづくりの文化的背景をプロダクトに落とし込んでいく。そんな動きをしていければいいな」
株式会社伝播
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