特別なステッチを入れて ワードローブに並ぶ生まれ変わった洋服たち

特別なステッチを入れて ワードローブに並ぶ生まれ変わった洋服たち

2025.4.18配信

城北信用金庫が運営する、東京・町屋のインキュベーションオフィス『COSA ON』(コーサオン)。

その一角にあるアパレルブランド『mn.』(ムンドット)のオフィスには、ビンテージやミリタリーにステッチを施した、ぜいたく感ただようアイテムが並ぶ。

一点物と量産アイテムの2ライン、ポップアップストアで認知拡大

ブランドを手がけるのは、共に武蔵野美術大学で服飾を学んだ、ディレクターの赤松和(アカマツ・ノドカ)さん(25歳)とデザイナーの中村実夢(ナカムラ・ミユ)さん(25歳)。

赤松さんは「同じ大学で一番尊敬できたのが実夢ちゃんのデザインだったんです」と話し、中村さんは「ディレクションまで手が届かないので、和ちゃんの存在は心強い」と、たがいに信頼を寄せる。

大学卒業後の2022年にブランドを本格的にスタートして以降、ECサイトを中心に販売のほか、日本各地でのポップアップストア出店なども行い認知を広げている。

ブランドのアイテムを愛するのは2人と同じく美術大学やデザイン系の学校を出たファンが中心だ。

ブランドラインは『Refaire』(ルフェール)と『Ordinaire』(オルディネール)の2種類。

『Refaire』は、買い付けてきたビンテージアイテムに独自デザインのステッチを入れた一点物。リペアサービスも無料で提供している。

一方の『Ordinaire』は『Refaire』とは異なり、ベーシックアイテムが中心。

前後いずれからも着用可能な「2way black vest 税込15,000円」(写真左)や、さりげなくボウタイをあしらった「ribbon-tie blouse 税込16,000円」(写真右)など、独自の世界観でアイデアを広げ続けている。

アイテム名にはテーマごとの「シーン」を反映

2025年3月には、春夏シーズンに向けた展示販売会を『COSA ON』で開催した。テーマは、架空のスポーツカントリークラブをイメージした『Sunlit Country Club』(サンリット・カントリークラブ)。

赤松さんは「そこにいる人のキャラクター、シーン、質感の3点を意識してアイテムを作りました」と話す。

そのひとつ「rally-queen’s dress(ラリークイーンズドレス)税込32,000円」(写真左)は、テニスでラリーを得意とする選手をイメージした1点。

デニムやスカートに合わせた、レイヤースタイルでのスタイリングにふさわしい。

「showdown dress(ショーダウンドレス) 税込31,000円」(写真右)は、赤のウエストラインが目を引くワンピース。

大事な一戦、決戦を意味する“showdown”を名前に取り入れた、覚悟を意味するアイテムだ。

多彩なアイテムに一つひとつ意味を込めて名前をつけるのがmn.のこだわりだ。

独自のステッチを施す原点となった「ブルーシャツ」

ブランド名『mn.』は、赤松さんの名前『nodoka』と中村さんの名前『miyu』の頭文字を組み合わせている。

大学時代、深夜のファミリーレストランでアパレルブランドを作りたいと話し合った際に、ペーパーナプキンに鉛筆で書き連ねた候補のひとつが『mn』。

『.』(ドット)を付けたら「響きがいいね」と意気投合した。

ブランドのテーマは『あの子たちのワードローブ』。
ワードローブとは洋服たんすなどを表す英語で、日常の着まわしを意味する言葉でもある。

モチーフとしたのは、フランスのミュージカル映画『ロシュフォールの恋人たち』だ。

「双子の主人公が劇中で描かれる年代の空気感や服装のエッセンスが、自分たちの求めているものと合致していたんです」と赤松さんは目を輝かせる。

ビンテージアイテムに独自のステッチを施すブランドライン『Refaire』の原点も、大学時代にある。

ブランドを立ち上げるにあたりその方向性を決めるため、ブルーシャツにそれぞれのデザインを施すテストアイテムを持ち寄った。

当時のことを赤松さんはこう振り返る。

「私はシャツの継ぎ目に沿ったステッチのデザインを作ったのですが、実夢ちゃんが持ってきたデザインに『どうしてここにステッチを入れるの?』とびっくりしたのを覚えています」

2人のデザイン志向は正反対で、赤松さんは論理的、中村さんは感覚的。

中村さんのデザインを見たとたん、“絶対にこのデザインを好きな人がいる”と確信した赤松さん。

読み通りブルーシャツはmn.の人気アイテムとなり、当時のデザインは今も定期的に復刻している。

「制作では『ここにステッチがあったらかわいい』とか『ここにラインがあれば身体がキレイに見える』とか、インスピレーションを大切にしています。既製品にステッチを施すからこその味わいもあるかなと思っています」と中村さんは話す。

ビッグチャンスの背景にあった苦労を乗り越えて

大手ブランドからのコラボレーション依頼によって2023年4月に実現した、東京・渋谷PARCOでのポップアップストア『あの子たちのワードローブ』により、ブランド『mn.』の名前は世に知られることになった。

当時は、ブランド立ち上げから「1年に満たなかった」と赤松さんは言う。

「月1着のペースで作っていた状況から半年で数十着を作らなければいけない状況に変わって、手縫いでは間に合わなくなったんです」

デザイナーの中村さんにとっては、デザインのアイデアを生み出す苦労もあった。

「アイデアが浮かべば何着でも作れてしまうんです。でも、初めてのポップアップでは焦りが強く、ブランドの意味を見失っていました」

mn.初のポップアップは成功に終わったが、2人は忙しさに追われる中で納得の行かないアイテムを作ってしまい、ブランドのクオリティを下げてしまった。

ポップアップでの反省から、実際の製作は工房へ外注するように。

シーズンごとのテーマを設ける時間が確保できるようになり、半年間で6着ほどだった制作数が、20着にまで増えた。

「当時の苦労を乗り越えて、今は自分たちのペースを守りながら『これがほしい』と自信を持てるアイテムを作れるようになりました」

展示会も開ける実店舗を夢見て

「展示販売会やポップアップストアでお会いする方から『一生大事にします』と言われるときもあって、そんな瞬間がとってもうれしいんです。ブランドがもっと大きくなったら、自分たちのスペースで展示販売会やポップアップストアを開けるような実店舗をオープンしたいですね」

そこには、2人が願う「お気に入りの一着を大切にしてくれる人に、ずっと着続けてほしい」という思いが込められている。

「低価格帯でないにもかかわらず、思い切って買ってくださる方もいるので。ずっと大切にしてくださるなら、ありがたいです」

ブランドはまだ、道半ば。

ステッチや金タグを縫い付け生まれ変わった服たちをワードローブに並べて、フランス映画に憧れた2人の女の子は、この先での夢をふくらませる。

mn.(オフィス)
東京都荒川区町屋1-3-12 COSA ON内 map
HP:https://mntokyoofficial.com
Instagram:https://instagram.com/mn.tokyo_/
X:https://twitter.com/mn_tokyo_