創業105年の地域ゼネコンに聞く 「音楽マンション」が支持される理由とは

創業105年の地域ゼネコンに聞く 「音楽マンション」が支持される理由とは

2018年3月、国内シェアNo.1を誇る楽器対応賃貸ブランド『音楽マンション®』が24棟まで数を増やす。首都圏に展開する各物件は、単身者やファミリー向けなど間取りもさまざま。コストパフォーマンスに優れ、入居率99.2パーセントと驚異的な数字をあげている。

同ブランドを手がける越野建設株式会社は、東京都北区を拠点とする創業105年の老舗ゼネコンだ。官公庁や学校などの公共建築から、企業や個人住宅などの民間建築まで幅広い実績を有している。

地域からの信頼も厚く磐石のように思える同社が、他社に先駆けて、趣味を切り口とした商品開発に乗り出した。その狙いに迫る。

楽器が弾ける賃貸マンション

音楽マンションは、優れた遮音機能によって、自宅で気兼ねなく楽器を演奏できる賃貸マンションだ。

たとえば、グランドピアノを弾いても、隣の部屋は深夜の住宅地の静けさに等しいという。数値にすると約60デシベルの音を遮ることができ、日本建築学会の指針では、最高位の“特級”に該当する。

実際にそれを確かめられるイベント『遮音体感&ミニ演奏会』にお邪魔したところ、想像のはるか上をいく性能の高さに思わず感動を覚えた。

楽器を思い切り演奏する部屋からどれだけ音が漏れ聞こえるのか。隣の部屋でじっと耳をすましてみたが、エアコンをつけた状態だとほとんど何も聞こえない。屋外の雑音も遮断されているため、とても静かだ。

それでいて、音の広がりも楽しめるように、バランスを考えた設計がなされている。

奏者を務めたフルーティストの八木谷由梨さんは、「防音室だと音の跳ね返りで耳が痛くなることもありますが、ここだと大丈夫ですね」と笑みをこぼす。バイオリニストの桜田悠子さんは、「思い立ったらすぐに弾けるというところが大きなメリットだと思います」と太鼓判を押した。

技術の粋を集めた遮音性能

音楽マンションの要となるのが、同社の独自工法による『結晶化コンクリート®』。明治時代から得意としてきた鉄筋コンクリートの技術を尽くし、高密度に精製したコンクリートだ。耐久性に加えて遮音性にも優れており、難しいとされている重低音すら大幅にカットすることができる。

このコンクリートを基礎に、遮音専用の二重天井や二重床、換気孔からの音漏れを防ぐ特殊な換気装置などを組み合わせることで、さらに遮音性能を高めているのだ。

そのため、一般的な物件では弱点になってしまうような線路沿いや幹線道路に近い立地であっても、家賃を下げず、むしろ相場以上の家賃水準でも人を集めることができている。

名実ともに評判を高めている同ブランドだが、その誕生にはどのような背景があったのだろうか。

アイデアで終わらないプロの提案

「音大生向けの企画を考えてくれないか―」きっかけは、とある土地オーナーから舞い込んだ依頼だった。月極駐車場として貸し出していた土地をもっと有効活用したい。そこで、近隣物件との競争に負けない、特徴的な賃貸マンションを考えているのだという。

しかし同社が提案したのは、社会人をターゲットにした楽器対応物件。取締役企画開発部長の吉井政勝さん(49歳)は、当時をこう振り返る。

「市場調査をしてみると、ボリュームゾーンは音楽を趣味とする社会人にあるとわかりました。たしかに、音大生に比べて人数やエリアに限りがないですし、家賃を学生価格にする必要もありません。しかも、需要があるのに、当時そういった物件はなかなかなくて。初めは半信半疑だったオーナー様も、数社からうちの企画を選んでくださいました(吉井さん)」

こうして建設がスタートした音楽マンション第一号は、入居予約が殺到し、完成を待たずして満室状態に。現在に至るまでの5年半、全14室の空室期間は全てを合わせてもわずか7ヵ月に留めている。

たとえ隣に新築ができても、せっかく見つけた最高の環境をそう簡単には手放せない。そんな音楽好きたちのツボを押さえ、見事コンセプト型賃貸として成功を収めた。

追求すべき“本当の価値”

楽器演奏ができると聞くと、音楽スタジオのような防音室を想像するかもしれない。ところが音楽マンションの入居者が望むのは、“普通の暮らしの中で音楽ができる”こと。必要とされる範囲内で遮音性能を追求していくのが同社のポリシーだ。

公共施設を多く手がけてきた同社にとっては、遮音性能をスタジオやコンサートホール並みにすることは難しくない。しかし、性能を高めるほど工事費や維持費は当然高くなり、それを回収するためには家賃を上げなければならない。手が届きにくくなれば入居希望者も集まらなくなるため、結果的にオーナーのマネープランにそぐわなくなってしまう。

多くの音楽愛好家は、適切な遮音性を備えたリーズナブルな物件を探しているのだと、代表取締役の越野充博さん(59歳)は語る。

「市場を冷静に見て、オーナー様の収益をしっかりと考えたスペックの中で、最高レベルのものをつくるんです。私たちの技術追求のためではなく、オーナー様と入居者様から求められているものをしっかりとつくり上げることが大切なのだと思います(越野さん)」

会員制コミュニティ『音楽マンション倶楽部』

オーナーにとって一番の心配事といえば、空室が出てしまうこと。その方策として同社では、音楽愛好家が集う会員制コミュニティ『音楽マンション®倶楽部』を立ち上げた。

まず、空室対策に直接寄与しているのが、メール会員の存在だ。これは入居待ちにあたる人々で、空室情報を一斉にお知らせしている。現在の登録者数は300人以上にのぼり、地方在住者も少なくない。このウェイティングリストからすぐに次の入居が決まることも多く、オーナーの安心感につながっているのだ。

そして、顧客エンゲージメントに一役買っているのが、入居者会員限定のサービスである。東京都交響楽団のコンサートチケットの抽選に応募できたり、河合楽器製作所やなんでも酒やカクヤス、地域の飲食店の各種優待など、住人としてもありがたい特典が並ぶ。

「新たな方に入居していただくのと同時に、そもそも退去しにくい環境をつくることも大事ですよね。そこで、入居者の方に長く住んでいただく動機づけになるようなサービスを提供できないかと考えたんです(越野さん)」

また、そこから生まれるコミュニティというゆるやかな連帯感が、入居者間で起きるご近所トラブルの抑止力にもなっているのだという。

音楽マンションが10棟目にさしかかる頃、越野さんは経営者として大きな手応えを感じていた。

「このまま棟数を積み重ねていけば、音楽という共通点を持った人が1000人、2000人と集まっていく。これを放っておくのは、すごくもったいない気がしたんです。横のネットワークができたら、きっと楽しいし、入居者の方にも親しみをもってもらえるんじゃないかと思っています(越野さん)」

将来的には、音楽マンション倶楽部でコンサートやセッションなどを実現させ、さらにコミュニティを盛り上げていきたいという。

数十年先を見据えた商品づくり

「どうしたらオーナー様が最大のパフォーマンスを出せるのか、そのために入居者様にいかに満足してもらえるか、それを考えることに尽きます。あくまで音楽マンションもそこから生まれた商品のひとつですから(吉井さん)」

時代とともに、生活者のライフスタイルや価値観は変化し、いつしか既存の地域コミュニティに属さない人たちが増えはじめた。その流れをいち早く察知できたのは、一世紀以上にわたって、まちづくりに携わってきた同社だからこそである。

「特に単身者用のマンションは、地域から隔絶されているような印象を持たれがちです。でも、自分たちがつくる建物が、なんだかよくわからないブラックボックスのように見なされるのは嫌だなと。入居者の方には街に出てコミュニケーションをとってもらいたいし、街の一員になってもらいたいと考えています(越野さん)」

音は聞こえずとも、心豊かな暮らしが目に浮かぶ音楽マンション。越野建設は、地域を舞台にタクトを振り続ける。

越野建設株式会社
東京都北区王子4-22-9
03-3913-4511
https://www.e-koshino.co.jp/

音楽マンション®倶楽部
http://ongaku-mansion.com/