シェフの技あり個性あり。フレンチ仕立ての創作ラーメン「麺や一途」

シェフの技あり個性あり。フレンチ仕立ての創作ラーメン「麺や一途」

東急目黒線・武蔵小山駅東口から徒歩6分。閑静な住宅地にある『麺や一途』。人でにぎわう商店街から離れているにもかかわらず、平日から客足の絶えない人気ラーメン店だ。

昨今のラーメンは、しょうゆ、塩、みそ、とんこつの他に、鶏そば系や濃厚魚介系などスープだけでも様々なジャンルに分けられる。ところがこの店はそのいずれにも当てはまらない“フレンチ系”だ。

「私はラーメン屋で修行したことはないし、よそと同じラーメンを作るつもりもございませんでした」

そう語るのは、株式会社氣絆の代表取締役で店主の仲田一途さん(56歳)。銀座にあったフレンチの名店マキシム・ド・パリを経て、目黒雅叙園の西洋料理部門の料理長を10年以上務めた後、2013年に開業した。

「びっくりすることが人の喜びじゃないですか。私がフランス料理店をやるんじゃ当たり前でしょう。じゃあラーメン店をやろうと。みんなにびっくりされましたよ」

店内は黒を基調としたシックな雰囲気。11席あるカウンター席に腰を下ろして上を見上げると、卓(たく)、途(みち)、利(とし)――とお品書きの札が掲げられている。スタッフやその家族の名前からインスピレーションを得ているそうで、これまた独創的だ。

何層もの旨みが重なる繊細なスープ

看板ラーメンはしょうゆ味の「卓」(800円・税込)。香り豊かな千葉県の下総しょうゆとフランス産のゲランド海塩、店で作った鶏脂(チーユ)をしのばせたスープは、旨みたっぷりでつい飲み干してしまう。

仲田さんによれば、3口ほどスープで口の中を慣らしてから食べ始めると、味をより感じられるという。

中細ストレートの麺に、オリーブオイルでマリネした豚バラ、背ロース、鶏ムネ肉のチャーシュー3種と小松菜をトッピング。しょうゆ味らしいクリア感が具材の味を引き立てる。

味のベースはフォンドボー

仲田さんのラーメンを語るうえでかかせないのが“フォンドボー”。フォンドボーとは、生後2~10ヶ月までの仔牛の骨や肉からとっただし汁のことで、ソースやスープなどフランス料理にはなくてはならない存在だ。牛骨からだしをとるラーメン店はあっても、仔牛をメインに使うのはめずらしい。

ニュージーランド産の仔牛の骨に鶏ガラと5種類の香味野菜、日高昆布を加え、アクを取り除きながらじっくり煮込む。いったん寝かせてから漉(こ)して再び加熱後、1日寝かせればフォンドボーの完成だ。

このフォンドボーに、しょうゆベースの“かえし”と呼ばれるタレを合わせるとスープの土台ができる。これにカレールー、みそ、鶏脂、昆布だしなど、各ラーメンに合わせた素材をブレンド。3種類だったラインナップは13種類まで拡大した。

その中で一番人気を誇るのは、みそラーメン風にアレンジした「衣利(えり)」(900円・税込)だ。

フォンドボーとかえしを合わせたスープの土台に、パルメザンチーズ、合わせみそ、鶏脂、一味唐辛子、生クリームをブレンド。サラッとした口当たりなのに、素材のコクがしっかり残っている。しょうゆで味付けした豚ひき肉のそぼろも絶妙だ。小皿のラー油を入れるとピリ辛に変化して、2つの味を楽しめる。

「クリーミィムール貝」(700円・税込)や「真鯛のマリネフリット」(700円・税込)、サイドメニューもフレンチを連想させる料理が並ぶ。白しょうゆで味付けしたポーチドエッグ「天使の味玉」(100円・税込)はトッピングとしても人気だ。

本格的でカジュアルなフレンチも

型破りなのはフォンドボーを取り入れたラーメンだけではない。店奥に1室だけ用意された個室では、2名~8名の1組限定でフレンチコースを予約できる。

「フレンチって隣が見えるじゃないですか。それが『ああ~、ワインを頼まなくちゃいけない』って雰囲気を作り出しちゃう。ここでそんな気遣いは不要です」

昼は3000円から、夜は5000円から1000円刻みで1万円が上限。コ-スは前菜、魚料理、肉料理、ハーフサイズのラーメンと続き、最後はデザート。5000円以上はスープも登場する。

旬の食材を使った料理はすべておまかせ。前菜「カナダ産オマール海老のサラダ仕立て 菜園野菜と共に」と、肉料理「軽くスモークしたフランス産鴨肉のロースト トリフの香り」はある日の7000円コ-スのメニュー。ラーメン店であることを忘れてしまうほど本格的だ。

ラーメンは好きなものを選べて、500円でフルサイズに変更が可能。旬と満腹感の両方が感じられるのが、麺や一途のフレンチだ。

豊洲店に向けて味の探求は続く

2020年春、麺や一途は3店舗目をオープンする。場所は、東京メトロ・有楽町線豊洲駅に直結し、商業施設やホテル、オフィスからなる超高層複合ビル「豊洲ベイサイドクロス」だ。

「さっと入れて、すぐに料理が出て、パッと帰れる。駅のそば屋をイメージしています。デスクワークの人がたくさんいる街ですから、量も少なめがいいのかな」

新店舗で提供するラーメンの試作はすでに始まっており、武蔵小山店の月替わり麺がテストマーケティングの場になっている。店舗ごとに違うメニューを楽しめるのも、麺や一途の魅力なのだ。

「お客さまの反応をみて試行錯誤しているところです。従来の技法にこだわらず、おいしいと思えるラーメンを作りたいですね」

フランス料理のエスプリ(精神)を注いだ、新しいラーメン店。豊富なラインナップから、お気に入りの味を探してみてはいかが。

麺や一途 武蔵小山店
東京都品川区小山2-17-30 map
03-6426-8428
平日 11:30~15:00/18:00~22:00(L.O)
土日祝 11:00~22:00(L.O)
https://www.menya-ichizu.com/