「NACORD TALK 私たちの経済圏を作ろう VOL.3」イベントレポート

「NACORD TALK 私たちの経済圏を作ろう VOL.3」イベントレポート

2019年11月27日、城北信用金庫と株式会社バリュープレスが共催する『NACORD TALK』が、荒川区町屋にある同金庫のインキュベーション&コミュニティ拠点・COSA ON 1階のカフェダイナー・TOKYO L.O.C.A.L BASE で開催されました。

独自の「経済圏」を作る地域企業の中の人のゲストトークから、新規事業開発やPRを学ぶ本イベント。第3回目となる今回は「デザイン起点で考えるビジネスの作り方」をテーマに、スムースデザイン株式会社の関根伸明氏と株式会社TheBoundaryの吉柴宏美氏が登壇しました。

二人の共通点は、デザイナーであり経営者であること。もう一つはデザインの領域にとどまらず、異業種への参入を果たしていることです。

関根氏は、自身が経営するインテリアデザイン会社で飲食事業部を立ち上げ、世界で800店舗以上を展開する台湾スイーツ専門店「MeetFresh 鮮芋仙」の営業権を獲得。現在、首都圏で7店舗を展開しています。

吉柴氏はデザイナーから起業し、東京・赤羽でマイクロブティックホテル「ICHINICHI」を経営しています。

両氏がどのような視点でビジネスを捉え実行しているのか、バリュープレス代表の土屋明子氏の進行のもと、お話しを伺いました。

デザイン≠見た目の装飾

見た目の良いものを作る専門家と見られがちなデザイナー。しかし関根氏は、プロジェクト全体をけん引する存在にもなりうると説きます。

関根氏:
「僕はインテリアデザイナーなので、お客さまが喜ぶ商空間づくりはもちろん、『どうしたら商業施設全体の売り上げが伸びるか』をイメージします。その他にも施工管理や法規、運営などプランニングされた提案ができるかどうかで、クライアントからの評価が決まります。デザイナーに一番必要なのは、想像力だと思うんですね」

一方で吉柴氏は、デザイン史家・ジョン=ヘスケットの “ニーズを満たし、生活に意味を与えるために、先例のない新しいやり方で自分たちを取り巻く環境を形作る人間の本性である”という言葉を引用して、デザインの本質を説明しました。

吉柴氏:
「私の場合は、廃墟となっていた祖母の美容院ビルをまるまるリノベーションしてホテルにしたんですが、これは『何にしたら建物の魅力を一番蘇らせることができるのかな』と考えた結果なんです。

リサーチしてみると、訪日外国人が増えているのにホテルは足りていない。近隣には女性が一人でも泊まれるのはビジネスホテルくらい。安心して泊まれるオシャレな所があれば需要があるんじゃないかなと思ったんです。

シャッターが閉まっていて、人が通り過ぎるだけだった場所がホテルになることで、外からお客さまが来て、地域にお金を落としてくれる。そういった周りの環境も含めて作っていくことがデザインなのかなと思います」

ノウハウを蓄積し、経済圏を広げる

いまグローバル企業を中心に、デザイナーの思考法が経営や事業開発に役立つという考え方が広まっています。あらゆる部門で創造性が求められる一方、デザイナーもデザインだけしていればいい時代ではなくなっていると関根氏は話します。

関根氏:
「どれだけ幅広い知識があって能力があるか。デザイナーの価値は、経験に基づいていると思うんです」

関根氏は、当サイトの『赤羽に日本初上陸スイーツ! 「MeetFresh 鮮芋仙」に込められた狙いとは』(2015年5月掲載)のインタビューで、台湾スイーツ店をはじめた理由を明かしています。それは、日本に進出する外資系ブランドから、内装・インテリアの受注を増やすための実績づくりのため。1号店のオープンから3年半が経過した今、ノウハウを縦展開していく計画があります。

関根氏:
「来年からFC加盟店の募集を本格始動します。まず単純に、加盟金やロイヤリティがあるのと、食材等を販売できるということ。そして一番大事なのが、FC契約の一部として店舗の設計・施工を弊社にやらせていただくということですね。新規事業によって、本業をさらに伸ばしていこうという考えなんです」

一方の吉柴氏も、自身のデザイン領域をさらに広げられるという考えがありました。

吉柴氏:
「ロゴを含むブランディングやサインデザイン、インテリア、ウェブ。ホテルには、今までやってきたデザイン要素がほぼ全部入っているので、ずっとやってみたいと思っていたんです。だけど、ホテルを手がけたことがないデザイナーになかなか依頼はきませんので、『じゃあぁ自分でやってみよう』と」

現在では、運営ノウハウを活かし、外国人からの問い合わせにAIが自動応答するチャットボットサービス『TRIPTROP』を開発。他の宿泊業者に販売する事業をスタートしています。

吉柴氏:
「クライアントの想いに共感したり、問題点を理解したり、そこに異なる要素を結合させて、新しいものを作る。デザイナーが常に頭の中でやっていることなんです。ビジネスにおいてのデザイン思考とすごく親和性がありますよね」

このデザイン、高い?安い?

デザインと経営は切り離せない関係であるとはいえ、クリエイティブ部門や人材が社内にないケースもあるでしょう。しかし外注するにも、委託先や案件ごとに価格は千差万別。相場がわかりにくく、二の足を踏んでしまう人も多いのではないだろうか。

土屋氏:
「デザイン費用の妥当性は、何を基準にしたらよいのでしょうか」


「デザインの値段はデザイナーの経験に基づいていると思うんですね。その人がどんな実績があるかで判断するしかないのかなと」

吉柴氏:
「例えばの話、クラウドソーシングに『ロゴ作成1万円から』みたいなのがあったとして、その値段でやるとしたら事前に20個くらいデザインを用意しておいて、依頼があったらパッと出すくらいのことしかできないんじゃないでしょうか。安ければいいというのはちょっと違うと思います。デザインには観察と思考が必要なので」

関根氏:
「僕であればその商品の特性をリサーチして、それを買ってくれるお客さまがどう見るのか考えるので、簡単には出てこないですね」

土屋氏:
「社内から理解を得られない場合、どう説得するのがよいと思われますか」

関根氏:
「そのデザインが高いか安いか、第三者が判断するのってなかなか難しいですよね。デザインには当然意味があり、それが形になっています。かっこいい・悪いだけではなく、どうやって売りたいからという意図を伝えていくのが一番いいんじゃないかと思います」

吉柴氏:
「労力をかけて開発した商品であれば、それなりの費用を出してデザインやプロモーションをしたいと思うんじゃないでしょうか。デザインの価値と商品や会社のそれは、なんとなくイコールになるんじゃないかな」

アートとデザインは似て非なるもの

参加者からはこんな質問が出ました。

参加者:
「小さな会社だとデザイン費用をかけづらいところがあります。例えば、優秀な美大生の力を借りてやっていくことについてはどう思いますか」

関根氏:
「アートとして見せるのであればいいと思いますが、利益を生まないとお店は長く続かないと思うんですね。僕がやるなら導線から厨房の中身レイアウトまで、形以外のものも提案していきます。今後何店舗も広げたいと考えているなら、それなりの知識があるデザイナーに頼んだほうが、後々いいんじゃないかなと思います」

吉柴氏:
「私も基本的には同意見です。例えば、1ヶ月の期間限定で、この学校の学生さんが何かをやるみたいなプロジェクトベースの飲食店だったら、すごくありなんじゃないかと思います」

トークセッションは盛況のうちに終了。その後、終了時間いっぱいまで登壇者と参加者、参加者同士が交流を深めました。

関根 伸明(せきね のぶあき)
スムースデザイン株式会社 代表取締役
東京都生まれ。1991年、株式会社船場に入社。アミューズメント施設を中心とした商業施設800店舗のデザインと設計を担当。お台場にある『東京ジョイポリス』は、JCDデザイン賞で最優秀賞を受賞。1999年退社後、スムースデザイン株式会社を設立。2006年には中国法人を設立し、現地の飲食店やショッピングモール、テーマパークなどを手掛ける。2016年には台湾スイーツ専門店『MeetFresh鮮芋仙』の日本での営業ライセンスを取得。翌年、日本第1号店を開業し、現在は7店舗を経営している。

吉柴 宏美(よししば ひろみ)
株式会社 TheBoundary 代表取締役
東京都生まれ。美大卒業後、イギリスの美術大学 Central Saint Martins College of Art and Designに留学。帰国後、Amazon Japan KKにてECのUI/ビジュアル面を担当。2015年に北区赤羽にて築45年の元美容院ビルを改装した宿泊施設『ICHINICHI』を開業。Asia Pacific Interior Design Award 受賞。デザイン性と独特の地域性を武器に、北区を世界に発信し続けている。