巨大な提灯がシンボルの浅草雷門からおよそ徒歩5分。新旧趣のある飲食店が並ぶ一角に、2020年3月にオープンした日本酒アイスクリーム専門店『SAKEICE(サケアイス)』をご存知だろうか。
SAKEICEは日本酒をたっぷり練り込んだアイスクリームで、そのアルコール度数は約4パーセント。これほど高アルコールなアイスクリームは日本初だ。もちろん、運転中の人や未成年には販売していない。
和モダンで統一された店舗は升をイメージしており、ガラスと木材を組み合わせた店内は清らかさと温もりがある。ショーケースにはSAKEICE3種類、ノンアルコール7種類のフレーバーが並ぶ。6人分のスタンディングカウンター、店先には2人掛けのベンチがあるのでイートインも可能だ。
冷凍のプロが日本酒をイメチェン
SAKEICEを選んだら、ぜひ味と香りの繊細な変化を楽しんでほしい。食べた瞬間は、日本酒の香りがしながらも“アイス”の印象。口の中で溶けていくとアルコールの風味が出てきて、食べ終わる頃には鼻に抜ける感じも含めて“酒”になる。
「日本酒入りのアイスと期待して食べたときに、ちゃんとお酒の風味がしないとダメなので、それをいかに残すかというのが難しいところです」
そう話すのは、SAKEICEを運営する株式会社えだまめ・代表取締役CEOの成田博之さん(34歳)。冷凍食品事業に参入したい企業のコンサルティングを手がけ、都内に研究所もある。同社初の直営飲食店の目玉であるSAKEICEの開発にあたっては、銘柄ごとにうま味や香り、口どけのポイントとなる空気の含有量を計算してレシピを完成させた。
もともとお酒好きな成田さんは、銘柄豊富でポテンシャルが高いのにもかかわらず、製造量がどんどん減っている日本酒の現状にもったいなさを感じていた。
「日本酒をそのまま勧めてもお酒好きしか反応しない。消費が伸びているアイスクリームを掛け算すれば、もっとモテるんじゃないか。また、自社の冷凍ノウハウを活かせるのではないかと考えたんです」
銘柄の魅力をアイスで楽しむ
お店で販売しているアイスクリームの価格は、SAKEICE・ノンアルコールに関係なくシングルが500円、ダブルが700円、トリプルが900円(全て税抜)。
販売スペースの奥にある厨房では牛乳やクリームでできたベースに、大量の日本酒を豪快に加えて、日本酒ファンもうなる絶品アイスを作る。
一番人気は、食中酒の定番銘柄を使って開発した『日本酒アイス』。ニュートラルを追求したというその味は、蔵元のある新潟の雪解け水のようにさわやかでスッとした軽快さが魅力。
北海道・旭川生まれの男山を使った『男山アイス』は米の旨味が堪能できる本格派。ベルギー・ブリュッセルで開催された2020年度国際味覚審査機構(International Taste Institute)で優秀味覚賞を獲得した。
ノンアルコールフレーバーは、季節性と素材のおいしさ、そしてSAKEICEとのバランスを重視して商品化しているという。
「SAKEICEと香りのいいカシスラベンダーやローズラズベリーを組み合わせたりして、マリアージュみたいに食べてもおもしろいですよ」
全国の蔵元と女性をつなぐコラボレーション
SAKEICEの客の7割以上が20~30代の女性。成田さんが蔵元へコラボレーションの企画を持ちかけると、「銘柄の知名度アップになる」と喜ばれることも少なくない。若者の酒離れや女性顧客の獲得に試行錯誤している日本酒業界にとって明るい話題なのだ。
また、SAKEICEにとっても日本各地の蔵元とコラボすることは、地方のローカル番組や新聞、WEBメディアに取り上げてもらう機会につながる。成田さんは、商品ラインナップの充実化と宣伝効果を同時に享受できると考えている。
「相手の力を借りながら広げていく側面もあるので、蔵元の想いも含めて丁寧にひとつずつ取り組んでいけたら」
8月には新潟県の今代司酒造とコラボを予定している。ほかにも10以上の蔵元と企画が進んでおり、定期的に商品化していく予定だ。
新型コロナウイルスが大きな転機に
ところで開業当初、SAKEICEのメインターゲットは訪日外国人だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で経営環境は劇的に変化。成田さんはすぐに販売戦略を軌道修正し、現在は実店舗とオンラインの両軸で顧客獲得を目指している。
緊急事態宣言が発令された4月には、オンライン施策の一手としてクラウドファンディングを実施し、支援総額は目標額のおよそ10倍、支援者数は500人近く集まった。
5月にスタートしたオンラインショップも評判は上々だ。SNSには「想像以上に日本酒」「アイスを食べて酔えるなんて最高」などの感想が続々投稿されている。
浅草を訪れる理由になりたい
一方で、成田さんは実店舗ならではの役割を重視している。
初めてSAKEICEを食べる時は店頭スタッフに相談してみるのがいいだろう。使われている日本酒の特徴を分かりやすく説明して、自分好みの銘柄に出会わせてくれる。また、店舗でしか食べられないフレーバーがあるのも魅力のひとつだ。
店内には成田さんが蔵元から手に入れた酒びんや升、たるをインテリアとして置いている。それらとSAKEICEを一緒に撮影してもらい、ただのアイスではなく“日本酒アイス”の文脈でSNSに投稿してもらうのが密かな狙いだ。
お店でSAKEICEを体験した人が、次はオンラインショップでリピートし、両方の数字が上がっていく。そんなビジョンを成田さんは描いている。
「コロナ禍でインバウンド需要が期待できなくなって、みんなが次の浅草のあり方を考えているときだと思うんですよね。SAKEICEは古くて新しいという二面性を持っています。浅草にとって価値のある、浅草に来る理由の一つになれたら」
下町に現れた新たなプレイヤーは、立ち止まることなく風を起こそうとしている。今年の夏はSAKEICEに注目だ。
SAKEICE(サケアイス)
東京都台東区浅草1-7-5 map
平日11:00~17:00/土日祝10:00~18:00
https://sakeice.jp/
https://www.instagram.com/sakeice_japan/
https://twitter.com/sakeice_japan