靴下に新発想。GLEN CLYDEが拓くモノづくりの活路

靴下に新発想。GLEN CLYDEが拓くモノづくりの活路

今や、3足1000円で手に入る靴下。消耗品のように扱われるようになって久しい中、2020年9月開業の商業施設・日比谷OKUROJIにオープンした『GLEN CLYDE SOCK CLUB TOKYO』は、1足2000円以上の日本製靴下が並ぶ専門店だ。

日本初の生涯交換保証サービス

JR有楽町駅と新橋駅をつなぐ高架橋は、1世紀以上も現役の赤レンガアーチが連続しレトロな雰囲気が漂う。その店先でひと際目を引くのが、通常の綿ソックスの6~10倍の強度があり、“生涯交換”を保証する『LIFE LONG』シリーズだ。

「靴下はいずれ穴が開くものだと思われがち。そこに穴が開いたら交換をするというサービスを付けることで、手を伸ばしてくれるんじゃないかと思ったんです」

そう話すのは、同シリーズの製造・販売を手がける株式会社グレン・クライド代表取締役社長の橋本満さん(54歳)。GLEN CLYDE SOCK CLUB TOKYOは同社の直営店であり、LIFE LONGを含むオリジナルブランドのみを取り扱っている。

生涯交換保証は、穴が開いた場合は新品に、かかとやつま先などがメッシュ状になった場合は3足で新品1足に無償交換してもらえる。直営店に持ち込むか、ウェブサイトから申し込みの上、同社に送るだけと簡単だ。

耐久性を裏付けるのは、コーデュラというアメリカ軍のバッグにも採用されている特別なナイロン。綿にコーデュラを約40パーセント混紡した特殊な糸を使用している。一般には摩耗試験で約1000回の摩擦に耐えたら頑丈だとうたうところ、LIFE LONGは3万回を超えても穴が開かなかった。

強度と履き心地はトレードオフと思いきや、足入れしたときの感触は綿100パーセントのものよりさらっとしており、洗濯しても柔らかさを保つ。

ビジネス・フォーマルシューズ向けに足元をスッキリ見せるリブスタイルをはじめ、丈や生地の厚み、編み方の異なる5タイプを展開している。

靴下でユニセックスを実現

靴下はギフトとしても人気のアイテムだが、相手の足のサイズが分からなくて購入を断念したことはないだろうか。そんな悩みを解決するのが同社の『relacks』。22.5~27センチのフリーサイズで、誰が履いてもぴったり合う不思議な靴下だ。

特別な編み方によって縦にも横にもよく伸びるから、片手でスルッと履けて、締め付け感がないのにフィット感がある。誕生のきっかけは介護に携わる知人の「寝たきりの人に履かせやすいモノが欲しい」という声だった。シームレスなつま先は長時間履いても快適で、部屋履きや重ね履きにもオススメだ。

デザインにおいても、無地やボーダーなど性別や年代を問わないシンプルなものばかり。日比谷OKUROJI店では、“ユニセックス・ノンエイジ”なrelacksを出入口付近にディスプレイすることで、集客効果を生み出しているという。

商品力で競争を避ける

もともとは大手セレクトショップのOEMメーカーとしてスタートしたグレン・クライド。1993年に開発したくるぶし丈の「アンクルソックス」を大ヒットさせ、ファッションの常識を一変させた会社でもある。

ところが、その勢いは長くは続かなかった。安価な模倣品が海外から大量に入ってきた結果、コスト面で勝負できなくなったのだ。これをきっかけに橋本さんは、誰もマネできない靴下を開発しようと決意し、商品コンセプトや品質を追求した靴下を自社ブランドで展開し始めた。

「スーパーのお肉と一緒ですよ。輸入肉と国産肉とで値段は違うけど、国産が好きな人は買っていく。20年かけてやっと人と競争しなくていいスタイルができあがったんです」

『GLEN CLYDE SEA ISLAND COTTON COLLECTION』はその真髄というべきシリーズ。世界の綿の生産量の10万分の1以下しか収穫されない、この世で最も高級な綿と称されるシーアイランドコットン(海島綿)で作る極上の逸品だ。

つま先縫いは熟練の職人による手作業で、履いたときのごろつき感がなく見た目も美しい。シーアイランドコットンでカジュアルソックスを作るのは日本で同社だけ、世界でも数社だけという希少性もブランド価値を際立たせている。

メーカーが「売る」を考える

しかし同社の商品力をもってしても、5~6年ほど前から、展示会でのバイヤーの反応に手ごたえが感じられなくなってきたと橋本さんは言う。

「人の目に留まり、足が止まり、手が止まるか。新商品を企画するときには、たとえ無地のソックスでも徹底的にそれを考えるんですが、いろいろなものが出し尽くされていて、新鮮さを感じてもらえない。問題は売り方なんだと気づいたわけです」

考えに考えた末にたどり着いたのがLIFE LONGの生涯交換保証だった。

さらに言えば、他の靴下よりも値が張る同社の商品は、良さが伝わらなければ購入には結びつきにくい。セレクトショップなどでブランディングを人に託すだけでは、魅力が伝えきれないと感じた橋本さんは、2017年に直営店第1号を御徒町に開店した。

第2号店となる今回の店舗では、世界有数のショッピング街である銀座に近いことから、シーアイランドコットンシリーズにGINZAラベルを付けている。高級なイメージを喚起させることで、購入意欲を増幅させる狙いだ。

競争は価格からモノへ

今では想像できないが、橋本さんが聞いた話によると、靴下が5~6足あれば銀座で酒が飲めた時代があったという。

「ママこれで今日よろしくなんて言って渡して。数十年前はそれくらい価値があったらしいんです」

低価格帯の商品でさえ明暗が分かれるアパレル業界において、同社は、国内外の靴下愛好家はもちろん安価な靴下で満足していた人を惹きつける。

「2000円の靴下が売れるならうちもチャレンジしようという企業が出てくる。そうすると価格の競争じゃなくてモノの競争になっていくんです」

高価格帯靴下のマーケットを開拓することは、モノづくりがきちんと評価される文化を育むことにつながると、橋本さんは確信している。

「多分人間が裸足で生活することはないので、靴下自体はなくなる産業ではない。でも産業がなくならなければいいかというと、それでは面白くない。靴下の価値をしっかり上げて、お客さまにちゃんと満足したものを伝える。文化を再構築し、ビジネスとして成功させるのが僕のライフワークです」

GLEN CLYDE SOCK CLUB TOKYO 日比谷OKUROJI店
東京都千代田区内幸町1-7-1 日比谷OKUROJI G03 map
03-6205-7171
11:00~19:00
第1・3火曜定休
https://glen-clyde.com