贈り物をする機会が増える冬。防寒アイテムとして喜ばれそうな上に何枚持っていても困らないのがマフラーだろう。
「武州織技(ぶしゅうおりわざ)」は、大正時代から受け継がれる織機で作られたマフラーシリーズ。ウールやカシミヤなど厳選された原糸を使い、どれもフワッと軽く柔らか。4000円から2万5000円まで揃えられ、予算別にも選びやすい。
その品質の高さとオーソドックスながら洗練されたデザインが支持され、大手カタログギフト専門店のロングセラーとなっている。
フォーマルから私服まで合う
「ゆっくりと織っていくので糸と糸の間に空気が入り、手織りのような、ふっくらした質感に仕上がっています」
約17年前から同シリーズを企画・販売する株式会社ケイズクリエーションの代表取締役・平野国男さん(78歳)は、武州織技の魅力についてそう語る。
男性からの一番人気は「キャサリンストライプ」(4000円税別)。濃色地に白のストライプは知性と清潔感が伝わる。日本最大級のクレジットカード会社が発行する会員情報誌に掲載された際には、数ヶ月で会員情報誌から600枚を売り上げた。
イギリス伝統の柄の一つで、日本では千鳥が飛ぶ姿に似ていることから名付けられた「小千鳥」(5000円税別)は、女性からの根強い支持を集める。
カシミヤ100パーセントの「ヘリンボーン」は糸が細くて柔らかく、非常に軽い。同じカシミヤ製とはいえ、海外製の安価なものは不純物を5~10パーセント含んでいる場合が多いが、同社は不純物ゼロのカシミヤの糸のみ使用。ブラウン、パープル、ブルーが2万円(税別)で、ブラックが2万5000円(税別)。
大正時代の織機を使い続ける理由
シリーズ名に冠している武州とは、埼玉県の古い呼び名の一つで、同県入間市にある有限会社細芳織物工場で全商品を生産していることに由来する。国男さんは同社を「国内トップクラスの技術力」と信頼をおく。
のこぎり屋根が印象的な同工場内では、1915年に開発された豊田式鉄製小幅動力織機(以下、Y式)16台が現役で稼働しており、武州織技はすべてこれで織られている。
高い汎用性で4万3000台以上が製造され日本の織布業の発展に貢献したY式だが、現存しているのは全国で約200台まで減少。所有している業者は8~10社といわれる。
その理由は生産速度にある。手織りの織機に動力をつけた程度のシンプルな構造で、高速織機の約10倍の時間を要する。マフラーなら1台の生産数は、1日当たりたったの10~15枚。さらに糸が切れたとき自動補充する装置がないため、つねに1人数台を見張っている必要がある。
あきらかに時間も手間もかかるが、ウールやカシミヤのような天然繊維を扱うにはY式は最適なのだという。
「糸が張った状態じゃなくとも織れるので、風合いを出すのにいいんですよ」
ディテールに宿る高級感
マフラーのクオリティは“耳”と呼ばれる両端を見ると分かる。
量産品は、大きな生地を一列ずつカットしてマフラーのサイズにそろえ、切りっぱなしの両端がほつれないよう縫製を加えるのが一般的。しかし、縫うことで生地が固くなってしまう上、チープな印象はぬぐえない。
一方でY式はもともと小幅の織物用に作られており、1枚ずつ織り上げるため、キレイな耳ができあがるのだ。
「こういう耳をしている繊維商品はわりと高級品で、とくにマフラーはすごく良い商品です」
また、フリンジと呼ばれるフサ飾りはマフラーを特徴づける大切な要素。武州織技は職人が手作業で撚り束ねており、機械で生成したものよりふっくらとするのだ。
製織の聖地から生まれる商品を広めたい
かつて老舗寝具製造卸会社に勤めていた国男さん。有名百貨店のバイヤーと世界中を飛び回り、いろいろな寝具を作ってきた。その百貨店は、無名であっても優れた技術力を持った産地を発掘する意欲が高く、国男さんも大きな影響を受けた。
「ものづくりにこだわった工場と長くお付き合いさせていただいています。そこに将来的な広がりを持たすことができたら」
同社は現在、武州織技のほかに今治(愛媛県)、越後(新潟県)、泉州(大阪府)で作られる繊維商品を“織技シリーズ”として展開している。
これらはカタログギフトへの卸販売のみで一般販売はしていないが、カタログ注文者から「すごく肌触りが良く使いやすいので他の柄も欲しい」という電話が同社にかかってくることもあるという。
そんなエンドユーザーからの声を受けて、平野幸治専務取締役(50歳)は2021年1月に自社の通販サイトをオープンする予定だ。
「老若男女関係なく使える色柄で作っていますから。自分で使いたいという方のニーズにも応えられれば」
流行ではなくゆっくり丁寧に生き抜く
武州織技のウリは圧倒的なお得感。同等品の中には価格が2~2.5倍するものもざらにあり、アパレル関係者からは「上代設定を間違えているのでは」と驚かれるほどだ。
同社はそのために、売れ筋の定番デザインに絞り、常に在庫が動いている状態で追加発注していく。小さな会社ならではのやり方でプライスを維持しているのだ。
「流行にとらわれることなく、一般の人たちに広く使っていただけるものを継続的に出していきたいんです」
いたずらに規模を追わず、商品の品質を追求するケイズクリエーションと、小ロットでもゆっくり丁寧に作った織物を広めたい細芳織物工場。
ちょうどいいスピード感で、愚直に、優れた日本産を届ける努力を続けていく両社は、宿命的なつながりに引き寄せられたのかもしれない。
株式会社ケイズクリエーション
東京都荒川区東尾久1-14-5 map
http://www.ksc-net.com/
有限会社細芳織物工場
埼玉県入間市春日町2-1-4 map