旅をあきらめない!ハマる人続出のあうたびオンラインツアーとは

旅をあきらめない!ハマる人続出のあうたびオンラインツアーとは

「まずは白いあんこを手のひらに乗っけて、丸いままつぶします」

福島県二本松市の和菓子店・玉屋玉振堂の6代目が、上生菓子「練り切り」の作り方をスマホのカメラに向かって実演する。参加者も画面越しにお手本を見ながら作り始めた。かわいらしい手鞠の練り切りが完成すると、誰もが無邪気な笑みを浮かべ、記念撮影に臨んだ。

移動を伴わない新しい旅のかたち“オンラインツアー”の一幕だ。

参加者の自宅には、各地の特産品や体験キットが事前に届く。ツアー当日はビデオ会議システム『Zoom』を使って、テーマに沿った見学先を数ヶ所巡る。中継される生産者の説明を聞きながら、特産品を味わったり、伝統工芸に挑戦したりして旅を楽しむのだ。

きっかけはオンライン飲み会

主催するのは“日本中の素敵な人に出会う”をテーマに国内旅行を手がけてきた東京都北区のあうたび合同会社。

2020年4月、コロナ禍という未曽有の状況下にありながら、長野県佐久穂町の酒蔵巡りを皮切りにオンラインツアーの提供を開始した。

「リアルツアーができなくなって暇になっちゃったんで、お客様や生産者とZoomで飲み会をしていたんです。そうしたら盛り上がって。これを旅の疑似体験みたいにできないかと思ったんです」

そう当時を振り返るのは、代表の唐沢雅広さん(48歳)。

これまでの開催数は120回以上、参加者の延べ人数は1年間で4000人を超えた。リピーターも多く、70回以上参加しているファンもいる。

ツアー開始30分前から接続テストを行えるようにしており、映像・音声トラブルがあれば電話でサポートしている。Zoom初心者のフォローも万全だ。

旅は筋書きのないドラマ

配信は、録画した映像を公開するオンデマンド型ではなく、旅先の人々と交流ができる“完全生中継”にこだわる。

例えば、酒蔵を探検する最中、参加者が「びん詰めするところも見たい」とチャットに書き込む。それを見た案内人は、「予定外だけど、行っちゃおうか」とリクエストに応える。気軽に質問もできて、参加者はどんどん夢中になっていく。

予定調和にいかないところに旅の妙味があるからと、ツアーは悪天候でも決行する。

「うちのツアーは景勝地を映して喜んでもらうというより、人に会うことが目的。現地の様子をリアルタイムに伝えたほうが、臨場感が高まります」

また、飛行機を乗り継いで15時間かかるような地球の裏側に一瞬で行けて、快適・安全に旅体験ができるのはオンラインならでは。とある企業の社員旅行ではケニアツアーを企画し、大草原を駆ける野生動物を目の前に、それは大盛り上がりしたそうだ。

楽しい盛宴は夜まで続く

案内人やカメラクルーは、生産者や自治体・観光協会の職員が務めることも少なくない。

「タレントさんと一緒にやったこともあるんですけど、テレビ番組みたいな感じになっちゃって。ツアーとしては、ホスピタリティにあふれた地元の人に出てもらうほうがおもしろいですね」

進行は、添乗員として同社スタッフが行う。事前取材を丁寧に行い、おもしろそうなものに目を付けておく。本番はそれらをテンポよく拾い上げて、案内人の人柄や特産品の魅力を引き出す。実際に行ってみたいとワクワクさせる技はさすがだ。

締めくくりは生産者を囲んでの懇親会。30~50人を少人数のグループに振り分けるので、気軽に話しができると好評だ。Zoom環境はツアー終了後もしばらく開放し、参加者は自由な交流を楽しんでいる。

「夜遅くまで盛り上がると、僕たちは『どうぞご自由に』と言って帰っちゃいます(笑)」

地域に眠る宝を磨き上げ

あうたびがコーディネートするのは、旅行者とローカルの温かい触れ合い。オンラインツアーだけでも、1年間で120~130人の生産者との出会いを演出してきた。

「メジャーな観光地じゃなくても、地元を愛し、盛り上げようと頑張っている人たちがいる。でも、なかなか情報を発信する場がないんですよね」

唐沢さんが開催準備のため、現地の人と一緒に観光資源を掘り起こすと、地元住民も気づいていない銘品や職人が見つかるという。

「ちょっと格好つけて言うと、その地域の観光の磨き上げにつながっているんじゃないかな」

旅慣れた人が本当に望むものを考え抜き、実行するプロデュース力が評判となり、全国の自治体・観光協会からオファーが絶えない。

また食べたい!に応えたECサイト

同社では2021年4月より、過去のオンラインツアーで扱った特産品の通販サイト『オンラインツアーマルシェ』を開設した。

「リピート購入したいという声が結構あるんですけど、地元でしか流通していないものも多いんです」

地酒やクラフトビール、海の幸、山の幸がずらり。複数の生産者の商品を取りまとめて発送してくれるので、1回分の送料で済むのがうれしい。

また、同サイトではお取り寄せができるだけでなく、商品に関連したツアーのアーカイブ映像を視聴することができる。あうたびのツアーを追・再体験したい人や、特産品の生産過程やこだわり、おいしい食べ方をじっくり知りたい人にぴったりだ。

好奇心を満たすサードプレイス

オンラインツアーは旅行の代替というだけではなく、小さい子のいるファミリーや体の不自由なシニアなど、身動きの取りにくい人も旅情を味わえるサービスとして注目されている。

しかし唐沢さんによると、観光という大きな市場で占めるシェアは1割にも満たない。

「コロナが落ち着けば、リアルな旅行のほうが楽しいでしょう。でも、人の好奇心を満たす新しい娯楽に進化させられれば、僕は残っていくと思います」

あうたびにはFacebookグループを利用した参加者コミュニティがあり、旅のゆるいコミュニケーションの場を提供している。唐沢さんは、リアルツアーとオンラインのコミュニティを連動させていきたいという。

「みんな家や職場以外に『どうもどうも』と言える場所が欲しいというか。しがらみなく一緒に酒を飲んだりできるのが楽しいんですよね」

外出が制限される今だからこそ、さまざまな発見や安らぎを得たい。そんな感情を家にいながら満たせる、あうたびのオンラインツアー。自分好みのテーマにきっと出会えるはず。

さあ、ネット時代の新しいトラベルを試してみよう。

あうたび合同会社
東京都北区赤羽1-59-8 ヒノデビル4F map
https://autabi.com/