「使う人にとって究極のバッグを作ってあげたいんです」
そう語る星野太郎さん(47歳)が作るのは、子どもの成長に寄り添う『ちいくばっぐ』。思わず持ちたくなるデザインと日常生活での使いやすさを追求し、親子にうれしい機能が至る所に取り入れられています。
きっかけは、わが子の「欲しい!」から
このバッグの誕生は、星野さんの長男が保育園に通っていた2017年にさかのぼります。
「遠足に向けてバッグが必要になり、新幹線好きの息子にどんなのが欲しいか聞いたら、『緑と赤が連結したやつ』って言ったんです」
緑は東北新幹線E5系はやぶさ、赤は秋田新幹線E6系こまち。どこを探しても、そのような商品は売っていませんでした。
そこで、バッグデザイナーとして20年以上のキャリアを持つ星野さんは、自分で作ってあげようと思ったそうです。
一人でまとめた指示書を協力工場に渡して、サンプルが上がってきたのが約2週間後。長男がそれを背負って登園したところ、「どこで売っているの」と周囲から質問攻めに。
商品化するつもりは一切ありませんでしたが、電車好きの子どもたちに届けたいという想いが強くなり、販売を決意します。よりリアルなデザインを追求し、JR東日本の商品化許諾も取得しました。
充実したラインナップも魅力
2019年2月に販売を開始した「新幹線シリーズ」は、現在売り上げ累計8000個を超えるちいくばっぐの代名詞ともいえるアイテム。SとLの2サイズ展開で、それぞれ園児・幼児向け、小学生以上向けに作られています。
Sサイズの中で圧倒的な人気を誇るのは、緑と赤のポップな色合いが可愛い『E5系はやぶさ&E6系こまち』と紫、紺を基調としたクールな印象を持つ『E2系はやて&E3系つばさ(新塗装)』の連結バージョン。(各5478円税込)
他にも単独バージョン(各5258円税込)に加え、次世代新幹線の試験車両『E956形アルファエックス』と電気軌道総合試験車『923形ドクターイエロー』といった豊富なデザインが多くの鉄道ファンを魅了しています。
自社のホームページや『ドランクドラゴンのバカ売れ研究所!』の公式オンラインショップで販売しているほか、鉄道模型好きが集まる専門店『ポポンデッタ』の一部店舗でも取り扱っています。
成功体験を積んでやる気アップ
3歳くらいの子どもは、なんでも自分でやりたがるもの。その一方で、思い通りにならないとカンシャクを起こすことが往々にしてあります。わが子のイライラは親にとってもストレスの種。カッとなって叱った後、反省したことのある人も多いはず。
「やりたいことは何でもやらせてあげたい。ファスナーの開け閉めなどの単純な作業はサッと終わらせて、その分たくさんの経験をして欲しい。100やったら、100成功してほしいわけですよ」
お出かけの支度が自分でできた!という達成感を積み重ねると自信がつき、生活習慣の自立につながります。親の負担も少し軽くなり、子育てにおけるお悩みをサポートしてくれるでしょう。
こだわり抜いた機能とは
ちいくばっぐ最大の特長は自立すること。
背当て面と底面にウレタンフォームの芯材が入っており、横から見るとマチが三角形になっています。床やテーブルに置いたときに倒れにくく、子どもが物を出し入れしやすい構造です。
ファスナーは縁に沿って滑らかに動き、使いやすさ抜群。内側にあえてポケットを付けなかったのは、親としての実体験に基づいています。
「保育園の先生からの手紙を子どもがポケットに入れてしまい、気づかないことがあるんです。あとから見つけて、えー!みたいな。なので、開けたら何が入っているか一発で分かるようにしました」
フタの裏側は透明ポケット付き。新幹線モチーフのメモカードも付属しているので、持ち物ややることリストを書き込めます。
実際に星野さんの長男は、ニコニコしながら進んで登園準備をするようになりました。星野さん自身も子育ての喜びを実感できているそうです。
「楽しそうに支度をする姿を見るのはやっぱりうれしいですよ。私は仕事に行く前にパワーチャージできています」
ユーザー目線で検証を重ねて発売
星野さんのこだわりは他にもあります。
それは、サンプルが出来上がったらまず自身で1年以上試用すること。開発から商品化までかなりの時間がかかってしまいますが、素材の傷みや縫製のほつれ具合、使いにくいところはないかを確かめます。
2020年10月に発売した東海道・西日本新幹線の『N700A』(5478円税込)は、汚れやすいからと敬遠されがちな白いボディ。開発にあたり、利用者の声を聞くために作ったコミュニティーでサンプルを無償配布し、それぞれのお子さんに思う存分汚してもらいました。
それらを回収し、洗濯で汚れが落ちるか繰り返し検証。最終的に、未使用製品との違いが分からないくらいキレイになりました。その過程は公式ホームページ内のブログに掲載しています。
「リアルな様子を全て公開することで、お客さまにより安心してご購入いただけると思ったんです」
人を想う気持ちが原動力に
バッグ作りの世界に入って、スポーツからレディースまでさまざまなスタイルの商品を手掛けてきた星野さん。蓄積した知識と経験の中から、新たなモノを編み出す作業が楽しくて仕方がないそうです。
「例えば、仕事やライフスタイルをとにかく全部聞いて、その人にとって“究極の使い心地”を妄想するのが大好きなんです」
使い手とじっくり対話して、必要な機能をピックアップし、要素としてカタチに入れ込む。ユーザーの気持ちにとことん寄り添い、一切妥協しないモノづくりは今やライフワークになったそうです。
あふれんばかりのノウハウと愛情から生まれたちいくばっぐは、日本の未来を担う子どもたちの頼れる相棒になってくれることでしょう。
星野太郎バッグデザイン研究株式会社
東京都北区昭和町1-9-15 map
https://hoshinotaro.com/