オフィスビルやマンションの修繕工事の現場にかかる組立足場。よく見かける光景だ。
鉄骨・鉄筋コンクリート造建物は、経年や地震の影響を受ける。劣化または損傷した箇所を補修して外壁の塗装などを行わないと、雨漏りや内部鉄筋の腐食が起きかねない。
組立足場は作業床や通路として使用される仮設物のこと。作業ボリュームの少ない工事では、その設置・撤去費用が工事費全体の2〜5割を占める。
「足場を立てないという前提に立てば、コストを安くできるんですよ」
建物の修繕を専門に施工する株式会社TRAWE(トラウェ)代表取締役の川口薫さん(40歳)は、『ロープアクセス』という工法を使うことによって、大幅なコストダウンと工期の短縮を実現した。
ルーツは欧米の洞窟探検
ロープアクセスは、洞窟探検家が開発したSRT(Single Rope Techniques)技術を産業用に改良したもの。
イギリスで誕生したロープアクセスの団体IRATA(INDUSTRIAL ROPE ACCESS TRADE ASSOCIATION、産業用ロープアクセス協会)が教育システムと認定資格をそれぞれ定めており、費用対効果の高さから海外の高所作業に広く導入されている。
作業者はハーネスと呼ばれる安全帯と各種ギアを装着する。その重さはおよそ30キロ。
夏の建設現場で怖いのが熱中症だ。宙吊りの状態で作業者の意識がなくなっても落下しない安全機構が備わっている。
2本のロープを使い、登ったり降りたり、ロープから隣のロープへ横に移っていく。高所だけでなくビルの谷間の狭小地のような場所もスイスイ。
鉄骨が視界を遮る組立足場などと比べて、修繕時や検査時の見落としが少ないという。
「作業員からはパノラマのように見えるので、視野が広いんですよ」
もしも見落としが発覚したとき、足場を組み直すのは容易ではないが、ロープアクセスならピンポイントで迅速に対応できる。
建物の性能だけでなく仕上がりも大切にする工事
せっかく修繕をしても、見た目が悪くてはがっかりだ。
鉄筋コンクリートの建物を人間に例えると、鉄筋は骨、コンクリートは肉、給排水設備は内臓、外装は皮膚にあたる。
内部の性能を回復させるだけでなく、見た目も美しく仕上げないとプロの仕事とはいえない。例えば、塗装は塗料の特性にあった塗り方をしないと跡が目立ってしまう。しかし、そこまで気にかける業者は決して多くないそうだ。
「メーカーは仕上げの品質を定めていません。大半の修繕会社は性能面にのみ重きを置きますが、うちは意匠性のクオリティまで重視しているんです」
職人は決して軽業師ではない。同社が抱える優秀な職人にはロープアクセスの技術を習得させ、修繕の現場に送り出す。
落下災害からビルに出入りする人や歩行者を守るため、防護シートなどの設置は怠らない。作業者の通路や足場に使う構造物ではないので、自社でさっと組める。
作業はチームで行う。複数の職人が同時に吊り下がれば作業は早い。
建築業者によっては下請けに工事施工を丸投げするところもあるが、川口さんが現場を取り仕切って工事を行う。同社の品質基準を満たさなくなる恐れがあるからという考えからだ。
鉄筋コンクリートは時代によって工法も材料も異なる。同社は設計図を精査したり材料メーカーに問い合わせるなどして、一つひとつの建物にきめ細かく対応する。
妥協を許さない姿勢と誠実な対応が評価され、お客様のリピート率はほぼ9割に達し、業績を順調に伸ばしている。
築年数の古い東京都渋谷区の聖心女子大学も同社が手掛けた。
早め早めに検査したほうがお得
しっかりした構造の鉄筋コンクリートは、外装である塗装やタイルをきちんとメンテナンスをすれば、100年以上の耐久性を持つといわれる。
建物の修繕は問題が顕在化してから対処する事後保全が一般的。しかし、1年ごとに建物を予防的に検診して、判明した劣化に対処すれば、建物のライフサイクルコストは大幅に低減できる――。そう川口さんは主張する。
「ロープアクセスで部分的に必要な箇所だけやっていくっていうのが、これからの時代に合っていると思うんですよ」
組立足場では実際に足場を組んだ後でないと劣化箇所をチェックできず、見積もりを概算で出すほかない。工事を始めたら費用が想定以上に膨らむことが往々にしてある。
ロープアクセスであればすぐに調査が可能。見積もりを出すのは調査が済んでからで、概算ではなく修繕箇所の実数で出す明朗会計だ。
ちなみに同社は、外壁調査から中小規模~大規模修繕、塗装・タイル・シーリング・防水・漏水補修工事、クリーニング・消毒除菌作業まで幅広く対応している。
本当にその修繕に組立足場は必要ですか?
日本は、20年~30年程度で建物を建て替えるスクラップアンドビルドの思想が強い。
しかし、少子高齢化と経済の停滞の影響で古い建物が余っている。大量の資源とゴミが発生するフロー型を見直し、欧米のように現在ある建物を大切に使うストック型への転換が叫ばれている。
近年、地震や大雨などの自然災害が大規模になっているのも気になるところ。被災した建物の現状を速やかに調査して、劣化した箇所だけ直せば、不動産の価値を適正に保ち続けられる。
さまざまな資材や機材の価格が高騰する中、新築ならともかく検査や部分的な修繕に対し、大量の部品を組み立てる組立足場が最適解とは限らない。
メンテコストは安く、建物の寿命は長く。その両立を図れるロープアクセスが、ビルオーナーの常識になる日はもう遠くない。
株式会社TRAWE
埼玉県戸田市氷川町2-7-11 map
https://trawe.co.jp/