「日本人は毎日、1人あたりお茶碗1杯分の食べ物を捨てていると言われています。でも実は、そのお茶碗の半分以上の食べ物は、みなさんの手元に届く前の時点で捨てられているんです」
そう話すのは、草加市・新田でスーパーを営む全栄物産株式会社の代表取締役・植田全紀さん(41歳)。2015年に掲げられたSDGsをきっかけに、まだ食べられるのに捨てられてしまう、フードロスの削減を目指し、今年2月『フードリカバリー ゼンエー』としてリニューアルオープンしました。
捨てられるはずの食品に、もう一度光を
新田駅から続くのどかな道を歩いていくと、コンテナ風の青い建物が見えてきます。
平日の13時。徒歩や自転車で次々と人がやってきて、市場のような活気があります。
生鮮食品を中心にさまざまな商品がずらりと並ぶ店内は、一見普通のスーパー。しかし、旬な野菜や馴染みあるお菓子の値段の安さに驚きます。中には通常の半額以下の商品も。
この破格な値段の理由は、店名の『フードリカバリー』にありました。実はこれらの商品は、規格外サイズやアイテムの入れ替えなどが原因で一般の市場には流通できなくなってしまったもの。同店ではこういった訳あり商品を積極的に仕入れ、店内の一部に“リカバリー”して販売しています。
「個人がいくらフードロスを減らすために頑張っても、手元に届く前の段階で捨てられている限り、根本的な解決にはつながらないと思いました。そこで、流通から外れた食品をもう一度販売ルートに戻す『フードリカバリープロジェクト』を始めたんです」
もったいない仕組みにメスを入れる
現在、植田さんが主体となり進めているプロジェクトは、主に4つの柱で成り立っています。
なかでも、食品業界の常識を覆す画期的な取り組みが「3分の1ルールから外れたものの再流通」です。
『3分の1ルール』とは、法律ではないが、メーカーと小売店の取引上の商習慣となっているもの。商品の賞味期限までを3分割し、製造日から3分の1の時点を納品期限、3分の2の時点を販売期限と設定、その期間を過ぎたら処分されるというものです。
消費期限とは違い“おいしく食べることができる目安”として定められた賞味期限に、さらに基準を設けることで、多くの食品がまだ食べられる状態で廃棄されてしまっています。
植田さんは、この状況を変えたいと、3分の1ルールによって弾かれてしまった商品をメーカーから買取り、売り場に並べています。特にセレクトしているわけではなく、販売できなくなったすべてのものが対象なのだそう。
「流通から外れてしまったものを、そこからさらに選んだらかわいそうじゃないですか」
もうひとつ、プロジェクトの周知も兼ねて行っているユニークな取り組みが『フードドライブ』。家庭で食べきれなかった食材をお店に持ち寄り、ボランティアの方を介して無償で生活に困っている方に届けています。
「家の食料庫の棚卸のような感覚で気軽に持ってきてほしいですね。思いの外反響もあって、毎回段ボール4、5箱は集まるんです。当日は着ぐるみを出したり、景品を用意したりして、楽しんでもらっています」
コープみらいや城北信用金庫など5社の協賛で定期イベントとして開催しているほか、店頭に毎日かごを置いて食品の持ち寄りを受けつけています。
フードリカバリーでつなぐ想い
経営コンサルタントを経て30歳で独立し、未経験からスーパーマーケットをはじめた植田さん。世の中にフードリカバリーを浸透させるには、まだ時間がかかると感じているそうです。ときにはお客さんに「安いと思って買ったのにこんなに賞味期限が短いなんて詐欺だ」と言われてしまったことも。
お店のリニューアルに踏み切ったのも、売り場を通して自分たちの取り組みをもっと知ってもらいたいという想いから。
店名に『フードリカバリー』という言葉を入れたほか、流通から外れた商品の売り場を拡大し、通常の商品の売り場と分けました。
仕入れにも一層力を入れ、メーカーや生産者に「食べ物を捨てる前にお声がけください」と呼びかけ続けています。
最近では「規格外の野菜を買ってくれると聞いたんだけど、取りにきてもらえる?」という農家からの声も増えてきたそう。近ければ植田さん自ら足を運び、引きとりにいっています。
曲がったきゅうり、不揃いのトマトやにんじん、太すぎる大根など、見た目で判断され処分されてしまう野菜たち。
調理は少し手間がかかるかもしれないけれど、味にそこまで違いはありません。手をかけて育てた農家にとっては、どれも愛しい我が子のような存在。
「農家さんは、せっかく作ったものも形が悪いと自分たちで捨てたり、畑に埋めたりしないといけないんです。だから僕が取りにいくと、すごく喜んでくれて。こういう現実や作り手の思いをもっと感じることができれば、変わっていくのかなと思うんです」
取り組みを広めることで意識改革を
SDGsが採択されて6年。日本全体で見ると、フードロスは徐々に減少傾向にあるそうです。それでも課題は多く残っている、と植田さんは話します。
「まだまだ、再流通するのが難しい商品がたくさんあるんです。たとえば、大手メーカーさんのプライベートブランドは、イメージを守るために販売期限が切れると100%廃棄になってしまいます。そういった食品業界の悪しき風習を変えていきたいですね」
処分するはずの食べ物を救うことで、作り手の思いも救う。それが広がっていくこともフードリカバリープロジェクトの一環なのかもしれません。
「取り組みを知って、想像以上の人が力になってくれるのを最近特に感じています。みんなすごく協力的で。そもそも『規格外の優しさを循環させる』というのが僕らのビジョンなんです。利益とか損得ではない、純粋な気持ちを応援したい。そして、それをこのお店から広げていきたいと思っています」
フードリカバリーゼンエー
埼玉県草加市清門2-42-14 map
048-942-5009
月曜~土曜 9:30~19:30
日曜 9:30~17:00
https://zeneibussan.com/wp_zenei/