2024.4.22配信
初夏のような陽気が続く4月下旬の東京。光を放ちながら飛翔するホタルが里山で見られるのは先の話だが、赤羽に一足早く“ほたる” が舞い降りた。
寿司を軸に多彩な料理とサービスを提供
JR赤羽駅と東京メトロ南北線・埼玉スタジアム線赤羽岩淵駅との中間にある赤羽中央街商店街を歩いていると、黒いタイルと明るい木材がコントラストをなす空間にいざなわれる。
2024年4月21日に開店した寿司居酒屋『スシとおでん ほたる』だ。
のれんをかき分け店内へ。笑顔で迎えてくれたのは、株式会社RAZULIT’e(ラズライト)代表取締役で店主の髙野翔さん(36歳)。
「昭和と令和のテイストを混ぜることで、どの世代のお客さまも居心地よく過ごせるようにしました」
町場の「寿司」「すし」や高級店の「鮨」でもなく「スシ」にしたのは、寿司の基本を抑えつつ、従来の発想にこだわらないメニューやサービスを提供し、若い人にも寿司をカジュアルに楽しんでほしいという思いが込められている。
1階はカウンター席が9席。間接照明をしつらえたカウンターが美しい。
2階は個室が4つ。うち2部屋はパーテーションを外して部屋をつなぎ、20名ほどで入れる。和紙を使った壁で高級感を醸しつつ、ボール型の照明でポップな雰囲気を演出した。
本マグロをふんだんに使った商品で差別化
ほたるの強みは、独自のルートで仕入れた魚介類とくに国産本マグロを核にメニューを組み立て、お値打ち価格で提供できること。もちろん素材の良さには自信あり。
「私は新潟県の佐渡島出身で、漁師の方にもらった天然のサザエやアワビなどをよく食べていました。海の幸の良し悪しに関して強いと思います」
寿司メニューの名物「マグロ三兄弟 税込748円」は、本マグロの赤身、中トロ、ほほ肉の豪華ハーモニー。
このほかに単品19品、あて巻き11品を用意。恵比寿の高級寿司店に監修してもらった塩の効いたシャリは、自家製のブレンド米と赤酢で味付け。
おでんは定番ダネを中心に通年で提供する。「おでん盛り合わせ 税込968円」は、はんぺん、牛すじ、しらたきなど数種を一皿で提供。柱に据える「マグロ大根 税込528円」は、3時間煮込んだマグロと味のしみた大根を合わせた絶品メニュー。
つまみのバリエーションも豊富。例えば、「レア和牛肉どうふ 税込825円」は、系列店から仕入れた和牛の薄切りを豆腐にこんもりと盛りつけた鉄板の組み合わせ。「マグロのポテサラ 税込528円」は、マグロの角煮をたっぷり盛った濃厚な一品。
このほか、サラダ、揚げ物、甘味などを幅広く提供する。
酒だけでなく水にこだわる理由
ソムリエが厳選したアルコールは、日本酒・焼酎を軸にサワー、ハイボール、カクテル、果実酒、生ビールなど幅広いラインナップをそろえる。
渋沢栄一が住居を構えた飛鳥山で採取し、培養した酵母を使った日本酒「飛栄」のプロトタイプ版も取り扱っている(下の写真右)。また2階のみ、2時間(L.Oなし)の飲み放題を税込2000円で行う。ドリンクは、スパーリングワイン、サントリー角、ジン、日本酒などが選べる(下の写真左)。
一方で酒を飲まない人が増えていることから、ノンアルコール系にも力を入れる。ウーロン茶から緑茶、煎茶、ジャスミン、ほうじ茶などすべて水出しで提供する。
「ほたるは水がキレイな所でしか生きられない。だからうちは高級飲食店で使われるπ(パイ)ウォーターを使っています」
パイウォーターとは生体水に限りなく近い水といわれており、口当たりが柔らかで飲みやすい。「特選抹茶ミルクハイ 税込792円」「煎茶ウイスキー 税込682円」など、お酒に茶葉をつけ込んだメニューも用意する。
お茶の飲み物を提供する時は、お客さまの目の前でスタッフがお茶を立てることでライブ感を訴求。
「非効率にこそ感動があるので、目の前で見せるというのは消しちゃいけないと思うんです」
その姿勢はお迎えとお見送りにも貫かれる。お客さまが来店したときはスタッフ全員が大きな声で元気よく「いらっしゃいませ」と挨拶する。お見送りの時は忙しくても店の外に出て、深々と頭を下げて「ありがとうございました」と感謝の一言を添える。
ランチ営業はせず、客単価は5000~6000円の想定。これはあくまでも平均で、ゆったり昼飲みをしたり、デートや接待用としても足を運んでもらいたいという。
キックボクサーから飲食店創業者に転身
資産家の家に生まれた翔さん。小学2年生まではおもちゃを付けで買えるほどだったが、両親が離婚してからは電気やガスが頻繁に止まる生活を送った。
地元の高校を卒業して目指したのはキックボクサー。飲食店でアルバイトをしながらハードな練習を続けていた。
「上京して以来ずっと赤羽に住んでいるんですが、知識もお金もなかったとき、町の人に助けられたんです」
スター選手を夢見ていたある日、悲劇が翔さんを襲う。車にひかれて首のヘルニアを患い、引退を余儀なくされた。
途方に暮れる彼の脳裏に浮かんだのが、飲食業で赤羽に恩返しすることだった。
塚田農場を展開するエー・ピーカンパニーに入社して3年間働いた後、独立。2018年の大衆肉ビストロ『Lit』を皮切りに、2021年にフルーツパーラ―『FERNA』、2022年にカフェ&ネオ大衆居酒屋『new-mon』をそれぞれ開店させた。いずれもJR赤羽駅から徒歩圏内にある。
渋沢栄一を心の師にして赤羽の発展に寄与したい
起業家として多忙な日々を送る翔さんが敬愛する人物がいる。北区の偉人、渋沢栄一だ。
店の正面に渋沢家の家紋を飾るほど心酔。『論語と算盤』に出てくる“智 情 意”という言葉は人生の指針になっている。
「智すなわち知性と意志があればすごいことができるけど、情愛がない限り、いつかは人に裏切られ、周りから人がいなくなってしまう。スタッフに対して情愛の大切さをことあるごとに説いています」
そんな翔さんを慕う一人が松澤さん。塚田農場で働いていた時に翔さんと出会った彼は、Lit開店の話を聞きつけて「雇ってほしい」と志願した。
「翔さんはめちゃめちゃ人望があっていろんなものを引き寄せる。そのパワーに魅力を感じるんです」
渋沢の教えを実践することで、結果的に北区に広く人脈を持つに至った翔さん。人とのつながりを活かし、赤羽のまちづくりにも積極的に参加していく考えだ。
「そもそもこの場所に出店したのは、日光御成街道の宿場町として栄えていた岩淵方面のにぎわいを取り戻す、その第一手となり得ると考えたからです」
ホタルは英語で“fire fly”。翔さんの熱い志を秘めたこの店が、お客さまの笑顔が飛び交う、町の未来を照らす光となる日は近い。
東京都北区赤羽1-29-8 map
03-6903-8840
13:00~23:00
定休日:月曜
https://ggad903.gorp.jp/
https://www.instagram.com/sushitooden/