「正直だからついてきてくれる」 国内楽器メーカー アルビットが一途に向き合う真空管サウンド

「正直だからついてきてくれる」 国内楽器メーカー アルビットが一途に向き合う真空管サウンド

2024.10.18配信

「僕はよく『音を出して気持ちよくならないとダメだよ』と言ってるの。それが原点の考え方ですね」

そう語るのは、株式会社アルビット・コーポレーション代表取締役の中沢喜代志さん(76歳)。

埼玉県草加市を拠点に、44年にわたってオリジナルの楽器用アンプ、プリアンプなどの製造・販売を行ってきた。

アルビットを利用するのは、趣味で音楽を楽しんでいる方からプロのミュージシャンまで幅広い。

「仲間同士でウチを評価してくれているんです。『アルビットに行って良かった』と言ってもらえます」

音が心地よく聴こえる真空管アンプ

アンプとは、ギターやベースの音を増幅して大きな音で鳴らす機械のこと。アンプに付随する、高音を上げたり低音を足したりして音を作る部分のことを、プリアンプと呼ぶ。テレビの音楽番組で演奏しているギタリストの背後に四角い箱が置いてあるのを見たことがある人も多いだろう。

アルビットのアンプの特徴は、真空管を使用しているところだ。

ともにアンプの製作を行う次男の中沢尚史さん(44歳)は「真空管アンプの音は心地いいんです」と説明する。

「真空管アンプの音は倍音が心地良く、音に色艶が出ます。人っていい音を知ると、戻れなくなるんです」

尚史さんの言葉を聞いて、喜代志さんが頷く。

取り寄せた新品の真空管に、通電することで動作を安定させる『エージング』を自社で24時間施し、自作の試験機を使用して質を測定している。徹底した品質管理の元で、アルビットのアンプは生まれるのだ。

プロも絶賛するアルビットのアンプ

アルビットの代表的な製品を紹介しよう。

スピーカーと一体型のコンボアンプ『A-1 Dream』 (写真左) は、リバーブという残響が出る回路が実装されているため、ギターを弾くと気持ちいい響きに包まれる。

ギターやベースなど幅広い楽器に対応した『A-1 Artist』(写真右)は、音が太く、まっすぐに飛んでくるのが特長である。

喜代志さんが“自信作”と言う『A-1 Inspire』は、2024年7月に発売されたばかりのプリアンプ。名前の由来を尋ねると、こんなエピソードを教えてくれた。

「大御所のミュージシャンがウチに来たとき、試作品を見て『俺、買うよ』と言ったんです。その後に招待されたライブでは、とてもいい音を出していました。それで“Inspire(奮い立たせる)”という名前にしたんです」

ミュージシャンはいい音で元気になるんですよ、と笑顔を見せる喜代志さん。お客さまのためを思うからこそできた製品が、アルビットにはたくさんあるのだ。

アンプを修理しながらベースアンプを開発

就職先の楽器メーカーでギターアンプなどの開発を行っていた喜代志さん。1980年に独立して独自のアンプの開発を始めたのは、ライブハウスで聴いたアンプの音がきっかけだった。

「ライブハウスに行って一番後ろで聴いていると、ドラムの音かベースの音かわからない。だから、後ろまでボーンと力強い音が届くアンプを作ろうと思ったんです」

同時に、海外の大手楽器メーカーのアンプを販売する山野楽器から修理を請け負うことに。

トップクラスのアンプを修理し続けてアンプ修理が軌道に乗った頃、とある日本を代表する有名ミュージシャンがベースアンプを探していると聞き、半年間休みなくアンプの試作を続けた。

苦労の末完成したベースアンプ『B-200』は、ミュージシャンの間で評判に。600台以上の注文が舞い込んだ。

これを機に、有名ミュージシャンもひっきりなしにアルビットを訪れるようになった。

「ハービー・ハンコック(世界的なジャズ・ピアニスト)のバンド、ザ・ヘッドハンターズにいたベーシストのポール・ジャクソンもよく来てくれました。江川ほーじん(元爆風スランプのベーシスト)から『こういうプリアンプを作ってくれ』というFAXが来てプリアンプを作ったこともあります。頼りにされるのはやっぱり嬉しいですね」

職人というより『アーティスト』

アルビットでは、新しい製品を作るときに雑談程度の打ち合わせをする。そこで出たひらめきを大切に製作しているのだ。

製品開発について喜代志さんは次のように言う。

「やり方は『アーティスト』に近いんじゃないかな。ミュージシャンは演奏して音を形にするけど、僕たちはアンプなどの製品として音を形にしています。ひらめきや直感を大切にしているんです」

職人ではなくアーティストに近い。長年アンプに向き合ってきたからこそ出る言葉に納得だ。

すべては“いい音”とお客さまのために

「真空管のアンプの中には『ブティックアンプ』といって、すべて手作りで100万円近くするものもざらにある。ウチはそれと同じような作り方をしているけど、 お客さんのことを考えた価格付けをして、40万円前後から販売しています。正直にやっているから、お客さんがついてきてくれるんです」

売れてもほとんど利益が出ない製品もあるというアルビットがそれでも作り続けるのは、喜代志さんの“いい音を残したい”という強い信念による。

尚史さんも続ける。

「デジタルの時代になって真空管の音を知らない人たちが増えてきているので、いい音を残したい。真空管の音を知らない世代にも知ってほしいです」

すべては、いい音のため。いい音を多くの人に体験してもらうため。この姿勢を貫いているから、アルビットは熱く支持されている。

「みんな喜んでくれるからね。あの顔を見たら、やめられないよな」

嬉しそうに話す喜代志さんと尚史さん。

アルビットは今後も世界にいい音を送り続け、未来へと継承していくことだろう。

株式会社アルビットコーポレーション
埼玉県草加市西町1382-3 map
048-928-1637
定休日:日曜・祝日・第2/第4/第5土曜・他年末年始など
https://www.albit.jp/