クラフトビールをもっと気軽に! 自社醸造も手掛けるVECTOR BREWINGの挑戦と情熱

クラフトビールをもっと気軽に! 自社醸造も手掛けるVECTOR BREWINGの挑戦と情熱

2025.3.5配信

東京の下町情緒が漂う浅草橋。駅から西へ線路沿いに進むと、猫のペイントが特徴のクラフトビール醸造所が姿を現す。

「クラフトビールを初めて飲む方の入口を目指しています。多くの方に楽しんでいただいて、クラフトビールの裾野を広げていければと」

そう話すのは、醸造所『VECTOR BREWING』(ベクターブルーイング)の創業者、小川雅弘さん(43歳)。ベクターブルーイングを運営するライナ株式会社の代表取締役だ。

『ねこぱんち』『TOMCAT』……ユニークなクラフトビールの数々

クラフトビールとは、規模の小さな醸造所が独自の技術やレシピで作る個性豊かなビールのこと。

基本的に、麦芽、ホップ、酵母、水というたった4つの原料によって作られ、組み合わせや入れる量、タイミングなどによって自在に味わいを変えることができる。

ベクターブルーイングが醸造するビールは10種類ほど。さらに季節に応じて出す商品も。自社が運営する飲食店で提供するほか、コンビニ、ネット通販などでも購入できる。

また、B‘zやももいろクローバーZなどの有名アーティストとコラボしたオリジナルのクラフトビールも販売。家で本格生ビールを楽しめる 『DREAMBEER』(ドリームビア)にも卸しており、外販全体の5%を占める。

メインの売れ筋は、小麦を使用したウィートペールエールの『ねこぱんち』。ホップの柑橘のような香りが際立つ、初心者向けのビール。苦みと甘みが絡み合い、気まぐれな猫の一撃のよう。

もう一つの人気商品『TOMCAT』は、ヘイジーIPAという濁り系のビール。苦みは控えめで、豊かなアロマが特徴。猫と戦闘機というモチーフのとおり、軽やかさとパワフルさを兼ね備えている。

いずれもユニークなネーミングと自社デザイナーによるパッケージが好評だ。缶製品は光るアルミ素材で箔を重ねており、デザインに惹かれて購入する人も多い。

浅草橋からほど近い錦糸町にある『VECTOR BEER 錦糸町店は、ライナが運営する飲食店の一つ。

温かみのある店内では10種類以上のクラフトビールとともに、名物の自家製ロティサリーチキンを味わうことができる。

クラフトビールの値段にも驚かされる。パイント950円程、ハーフパイント550円程という値付けは、他店よりも格段に安い。

「クラフトビールを気軽に楽しんでいただきたいので低価格にしています。自社醸造なので安く提供できるのと、駅から少し離れた二等立地に店を構えているので運営コストを抑えられます。デイリーでお店を使ってもらいたいという気持ちが大きいですね」

大阪で味わった「人生最大の危機」

兵庫県出身の小川さん。大学を卒業して一般企業で1年務めた後、2005年、23歳のときに大阪で未経験の飲食店を開業した。もともと起業志向が強く、参入障壁が低い飲食店の開業を選んだという。

オープンしたステーキハウスは、500円という破格の値段が話題を呼んだ。

「当時、近くの店が999円でステーキランチを出していて大行列していたので、それより安ければもっと並ぶんじゃないか?という単純な発想でした」

関西では当たり前の低価格路線が小川さんの基本的な考え方。東京でも二等立地に店を構えるコスパ重視の姿勢はここから来ている。

読み通り店は繁盛したが、小川さんが「人生最大の危機」と呼ぶトラブルが起こる。

「信頼していた人にお金を持ち逃げされてしまったんです。このときは金銭面と精神面、両方で落ち込みました。もう大阪ではやっていられない気分になり、活動拠点を東京に移しました」

資金ゼロからの再スタート。思いついたのは、今でいうクラウドファンディングだった。一口40万円の出資者を10人募って、400万円を開業資金に。出資者はランチとディナーのアルコール2杯が無料になる。2店目まではこの形で出店した。

従業員の力も助けになった。

「人には恵まれたと思っています。最初はアルバイトで入った子が役員になって支えてくれたりとか。誰かがいつも補ってくれて、感謝しかありません」

2013年、新宿御苑にクラフトビールの専門店『VECTOR BEER』を出店。もともとのビール好きが高じて、クラフトビールの専門店を作った。

「満席でお客様を帰すことが増えたので、新たに近くの物件を借りて、そこでもクラフトビールの店を始めました。その時、どうせなら自分たちでビールを作っちゃおう、と思ったのが醸造の始まりです」

ビール醸造の経験はまったくのゼロ。一から勉強し、免許の取得などにも苦労したが、クラフトビールの老舗『サンクトガーレン』でビール造りをしていた職人が入社したこともあって軌道に乗った。

サンクトガーレンから入社したブルワー木水朋也さん(写真右)

店内で醸造したクラフトビールは瞬く間に人気を集めることに。半年もしないうちに生産が追いつかなくなり、浅草橋に二つ目の醸造所を開業した。

コロナ禍のピンチをチャンスに

ライナが順調に成長する最中、コロナ禍が襲いかかる。

「本当に地獄でしたね。営業ができない間も従業員に給与を100%支払っていたのもあって、蓄えていた自己資金の利益を1年で食いつぶしてしまいました」

2021年1月の決算では業績がマイナス1億7000万円にまで落ち込んだ。多くの店舗を運営するライナにとって、まさに危機的状況だった。

それでもコロナ禍二年目以降は助成金なども入り、利益率の低い店舗を整理することで何とか危機を乗り越えた。

自前の醸造所を持っていたこともプラスになった。

「醸造したビールを外販などの卸先で多く売るようになったのがこの頃です。今は外販がビール売り上げ全体の7、8割を占めるようになりました。生産量が追いつかなくなり、埼玉の寄居に三つ目の醸造所を開業しました」

さらに、新規の醸造所を作りたいという相談が多数舞い込み、醸造所開業のコンサル事業もスタート。

今後は大規模な缶詰機を導入し、瓶から缶に移行してコストを抑えつつ生産量を増やしていく予定だ。

日本でも世界でもクラフトビールのマーケットを広げていきたい

現在ライナの売り上げは、9割が飲食店でビールは1割程度。今後はもっとビールに力を入れていきたいと話す。

「ビールの売り上げを3割ぐらいまで大きくしたいですね。今後は海外でも販売していくつもりです。いずれは海外にも醸造所を作りたいです」

さらに、人気ラーメン店のフランチャイズ経営も予定している。

「従業員の中には年齢が上がってきている方もいるので、夜の営業とは別の働き方があってもいいかと思い、ランチ営業もできるラーメン店を始めることにしました。そこでもクラフトビールを提供したいと思っています」

従業員ファーストで思いついたラーメン店経営。ずっと従業員に助けられてきたという小川さんらしい発想だ。

そして何より、クラフトビールをもっと広げていきたいと意気込む。

「他社のクラフトビールでもぜんぜん構いません。自社のブランドであるこだわりはないんですよ。クラフトビールのマーケットが広がっていくのがいいなと思うんです」

ライナはさまざまな形でクラフトビールを世の中に送り届けていく。

楽しい乾杯の声とともに、飲み干されるクラフトビールもまた増えていくだろう。

ライナ株式会社 本社・VECTOR BREWING浅草橋醸造所
東京都台東区浅草橋4-7-3 map
03-6380-6844
https://lifeart-navi.com/

ベクタービア 錦糸町店
東京都墨田区錦糸3-10-4 澤野ビル1F map
050-5593-1085
火曜~木曜 17:00~23:30
金曜~日曜 16:00~23:30
定休日:月曜
https://tabelog.com/tokyo/A1312/A131201/13202421/